ホンマでっか池田教授による「絶滅とはそもそも何か?」という考察

 

個体の死によって、個体を構成する細胞群が絶滅する現象に似ているのは、創設個体から単為生殖で次々と子孫を増やしたクローン生物の絶滅であろう。マダガスカル島にミステリー・クレイフィッシュという単為生殖するザリガニがいる。北アメリカ原産のスローザリガニ(Procambarusfallax)から分岐したもので、マダガスカル島には人為的に導入された。スローザリガニとは生殖隔離が成立しているので、別種とする意見があり、私も別種扱いで妥当だと思う。別種とした場合の学名はProcambarusvirginalisである。

このザリガニは3倍体(相同染色体が3対ずつある)で、普通のスローザリガニ(2倍体)と4倍体のスローザリガニ(恐らく最初の細胞分裂で染色体は倍加したのに細胞が分裂せず4倍体になり、その後は4倍体のまま細胞分裂が進んで、生体になったと考えられる)が交配して3倍体の個体が生まれ、このたった1頭の個体から単為生殖で次々と子孫を増やしたものと考えられている。3倍体の生物は減数分裂ができないので、有性生殖は不可能だ。

カミキリムシでも単為生殖をするものが知られており、奈良の春日山などにいるクビアカモモブトホソカミキリはメスしかおらず、実験的に単為生殖をすることが確かめられている。単為生殖は交配行動にエネルギーも時間も使わないので、適応的な環境が続く限り、同じようなニッチ(生態学的地位)をもつ他種に比べ有利であり、マダガスカル島のミステリー・クレイフィッシュは他の在来種にとって脅威となっているようだ。

同じ遺伝子組成のユニットが分岐して次々と増えていく様は、受精卵が分裂して多細胞生物に発生する現象と同型である。異なるのは、1個体を形成するすべての細胞は、個体の死と運命を共にするが、クローン生物の個体は、同時に死んだりしないことだ。しかし、DNA組成がほぼ同じクローン生物は、環境変動や病気に対する反応がほぼ同じで、耐性を持たない感染症が流行ったりすると、場合によっては全滅しないとも限らない。

単為生殖はそのクローンが環境に適応している限り、極めて効率がいい繁殖方法だが、ゲノム(DNAの総体)が固定化されているので、次々に起こる環境変動に耐えて生き続けるのが難しいのであろう。有性生殖に比べて一般的な繁殖方法ではない理由は、ここにあると思われる。しかし、ヒルガタワムシの仲間は、全世界に700種ほど産するが、すべて単為生殖をおこない、4000万年程生き続けている。どうやら、他の生物からDNAを取り入れて、ゲノム組成を変更しているらしい。有性生殖の代わりに他の生物を使って、ゲノムをリフレッシュしているのだ。

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