米国は正義か?中国がロシアの行為を「侵略」と呼ばぬ正当な理由

 

日本では、ウクライナの人々のため世界が団結してロシアを追い込むことこそが正義だと信じられている。だがそこには、相違点がありながらも何とか一つの秩序を共有しようとしてきた世界を決定的な分断へと向かわせる危うさが潜んでいることに思いを至らせる声が不足している。

われわれは正しいから国連は無視しても良いという考え方の先にあるのは、繰り返しになるが戦争だ。

その意味ではロシアの行いを肯定するというのではなく、彼らが戦争に向かう前にしていた主張を国連という秩序に照らして検証する必要もあるだろう。

さて、そういう意味でも中ロ首脳会談後に出された声明をもう少し細かく──以前にもメルマガで一度少し触れたが──見てゆかなければならない。

全文を読めば明らかなように声明は「反アメリカ」と「国連中心主義」に彩られている。

冒頭から「国際社会には少数の勢力が依然として一国主義を奉じ、強権的に他国の内政に干渉し、他国の持つ正当な利益を損ねている」と対米批判をしているのが典型だ。中ロはこれを認めず、「国連を中心とした国際体系と国際法を基礎とした国際秩序が必要」だと訴えている。

また四つに分けられた各ポイントでは、まず一で「『民主』は一部の限られた国の特許ではない」と、これもアメリカを中心に西側社会が内政に干渉することへの反発だ。アメリカの民主主義が基準ではなく、中ロは「国連憲章」と「世界人権宣言」こそが基準だと主張する。

続く二では、感染症対策、一帯一路構想、そしてマクロ政策、科学技術、気候変動などでの中ロの協力や見解に触れ、三で再び世界の安全についての話題に戻る。

持続可能な世界の安全をテーマとした中ロの合意のなかで特徴的であったのは、「中ロは相互に核心的利益を堅持することを重ねて表明し、国家主権と領土の保持と外部勢力が中ロの内政に干渉することに反対する」という一文だ。これもまたアメリカに対するけん制である。

三では「両国は」という主語に交じって「ロシアは」という主語も登場し「中国の一つの中国政策の支持と台湾が中国の不可分な領土の一部であることを承認し、またあらゆる形での“台独”に反対する」という一文も加わっている。

外国メディアが一斉に取り上げた「NATOの東方拡大に反対する」という一文も三のなかに記されたものだ。

ただ三の範囲は広い。AUKUS(オーストラリア、イギリス、およびアメリカ合衆国の三国間の軍事同盟)を念頭に核拡散への懸念や生物兵器禁止条約の重要性、INF(中距離核戦力全廃条約)廃棄後の欧州で緊張が高まったことなどを指摘している。そして「中国は」という主語で、「ロシアが提出した法的拘束力のある欧州の長期的かつ安定した安全保障の提案を支持する」という立場も示されている。

この提案に対しアメリカが冷淡に応じたことがロ烏戦争の一つの断面だと中国が考えていることが、ここから伝わってくるのだ。

中国の報道官たちが「共同声明を精読してくれ」と繰り返した理由も理解されたのではないだろうか。

そして最後に四がくるのだが、ここで中ロがターゲットにしたのが、実は日本だ。国連への支持と同時に「第二次世界大戦の歴史の歪曲と改ざんの企みに反対する」という一文がそれに当たるが、この話題は紙幅の都合で次の機会に回すことにしよう。

ウクライナ侵攻を目の当たりに、ロシアが破れかぶれの暴挙に出たとの解説が日本ではよく聞かれる。しかし声明を読む限り、ロシアが国連という価値観を案外大切にしていることがうかがえるのだ。

中国問題を中心に精力的な取材活動を行う富坂聰さんのメルマガ詳細はコチラ

 

image by: YashSD / Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print
いま読まれてます

  • 米国は正義か?中国がロシアの行為を「侵略」と呼ばぬ正当な理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け