当然ながら、皆さんが気にしているのはプーチン大統領が核兵器を使おうとしている場合、それをどのようにして阻止できるかという点です。プーチン大統領だけでなく、核のボタンを保つ3人全員を暗殺するか、クレムリンや国防省ごとミサイル攻撃で吹き飛ばせば核兵器の使用を阻止できるのでしょうか。
実は、そうは問屋が卸さない仕組みができあがっているのです。2020年6月、プーチン大統領は4項目からなる核兵器を使う状況を明らかにしました。
- 相手が大陸間弾道ミサイルを撃つとの確実な情報があるとき(核を搭載しているかどうかは問わない)
- 破壊工作でロシア政府や軍の施設が機能を停止するようなとき(サイバー攻撃を想定)
- 生物化学兵器を含む大量破壊兵器を使われるとき
- 通常兵器による攻撃であっても、ロシアが国家存立の危機に立たされるとき
暗殺やクレムリンなどへのミサイル攻撃はこれに該当しますから、そんなことをできないように手を打ったのです。
また、外国からの核攻撃が奇襲的に行われた場合には、プーチン大統領ら首脳が死に、上記のシステムは機能しなくなりますから、そのような場合にも核兵器による反撃ができるように「ペリメートル」または「死者の手」というシステムが存在しています。
ソ連が1980年代に開発した「ペリメートル」というシステムは、核攻撃による閃光・放射線・爆風・地震が探知された場合、米国の緊急ロケット通信システム(ERCS)のようなロケットをサイロから発射し、ICBM、戦略爆撃機、弾道ミサイル原潜に発射命令を伝えるものです。ただし、平時は稼働しておらず、有事に起動される半自動システムで、核攻撃を探知した場合も、地下司令室にいる当直士官3人が、緊急通信用のロケットを発射するかどうか決めます。
こんな具合ですから、プーチン大統領に核兵器を使わせないようにするには、核のボタンを持つ3人をロシア国民の手で合法的に拘束し、核兵器を備えている部隊に伝わるよう、ただちに公表する必要があるのです。ロシアの軍部などがクーデターを実行すればよいというだけでなく、同時に核のシステムが作動しないように手を打つ必要があるところが、とても悩ましい点です。
そんなことになることなく、プーチン大統領が核のボタンから手を離すことを願わずにはいられません。(小川和久)
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