NATOの重大な責任
もちろん、ソ連=ロシアではないと言っても、国柄というのはそう簡単に変わるわけではありません。またロシアは、歴史的にも周辺の国々にかなり野蛮なことをしてきたこともあるので、警戒感を持たれるのはある程度仕方がないことです。
旧東欧諸国や旧ソ連構成国の多くが、NATOに入りたがるのも、ロシアの脅威を排除するのが目的であり、ある意味、「ロシアの身から出た錆」という面がないこともないのです。
しかし、ソ連や東欧共産主義圏が崩壊し、東西冷戦が終結したにも関わらず、東西冷戦時代の敵視姿勢を取り続けたNATOにも大きな問題はあると思われます。
プーチン大統領も、就任当初はNATOに加盟したいと考えていたともいわれています。プーチン大統領がなぜNATO加盟をあきらめたのかなどの詳しい状況はわかりません。が、現在のNATOの姿勢を見ればNATO側にロシア加盟歓迎の意向がなかったことは十分に考えられえます。
NATOでも、1991年にロシアも参加させた「欧州大西洋パートナーシップ理事会」という機関をつくっています。これは、NATOと旧共産主義国(ロシアを含む)との信頼関係を構築するためにつくられたものです。NATOとしても一応はロシアにも配慮しているということです。が、この「欧州大西洋パートナーシップ理事会」は同盟などとは程遠い、「ちょっとした会合」程度の存在で、国際関係には何の影響も与えていません。
NATOが拡大すれば、ロシアが孤立していくのはわかっていたことなのだから、なぜロシアが孤立しないような配慮をしなかったのか、なぜロシアが疑心暗鬼に陥るような状況をつくってしまったのか、NATO側も重大な反省をすべきなのです。
また今回のウクライナ戦争において、当初、NATO諸国はウクライナへの武器支援はなかなかしたがりませんでした。ドイツなどはヘルメットしか寄贈せずに、ウクライナ側からの失望を招きました。それは、NATO側に「ロシアはウクライナを占領してしまう、負け馬に乗っていたずらにロシアを刺激したくない」という意向があったものと思われます。が、案に反し、ウクライナが善戦し、ロシアの侵攻を食い止めるようになってから、NATO諸国はウクライナへの積極的な武器支援を行うようになったのです。
こういう状況を見ても、NATOには「ヨーロッパの平和に責任を持つ気概」は見られないと言えます。ウクライナを守るつもりはないのであれば、ウクライナがNATOに加盟したいと言い出したときに、ロシアやウクライナとも話し合い、今後のヨーロッパの安全保障をどうやっていくべきかを考えるべきだったのです。
このウクライナ戦争は、単なるロシアとウクライナの戦争ではないと筆者は思います。
このままロシアを仲間外れにしておくことは、日本を含めた西側諸国にとっても、のちのち大きな負債を負うことになりかねません。現在もその兆候が見られますが、これ以上、西側諸国がロシアを阻害すれば、ロシアは西側諸国よりも中国を盟友とみなすようになるはずです。世界第2位の経済大国である中国と、世界最大の核保有国であるロシアががっちりとスクラムを組めば、西側諸国にとっては強烈な脅威になります。もちろん世界経済においても巨大な勢力となります。
現在の世界経済は、アメリカを中心とする西側諸国がイニシアティブをとっています。必然的に、西側諸国にとって都合のいいルール、都合のいいモラルが幅を利かせています。が、西側諸国が自分たちの都合のいいようにばかりやっていると、後でとんでもないしっぺ返しを食らわせられるかもしれないのです。また日本では、西側諸国が世界の標準のように思われていますが、世界には西側諸国のことを嫌っている国や地域も多々あるのです。アジア、アフリカ、南アメリカなどでは、反米、反英、反仏の地域はたくさんあります。それらの国々が、ロシア、中国と結託すれば、相当な勢力となってしまうでしょう。
だから今のうちに、西側諸国とロシアが、本気で信頼関係を構築する気にならないと、そのうち本当に第三次世界大戦が起きるように思います。
日本としては、一刻も早く停戦となることを考えつつ、NATOとロシアの信頼関係が構築できるような提言をしていくべきだと筆者は思います。おそらく日本がそういう役割を担うのは無理だとは思いますが…。欧米の顔色ばかり窺い、何一つとして自分で決断ができない日本には…。
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