5.6兆円は高いか安いか。イーロン・マスクのTwitter買収額を考察

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大きな話題となっている、イーロン・マスク氏によるツイッターの買収。5兆6,000億円を超えるとされるその買収総額は、果たして高いものなのでしょうか、それとも安い買い物と言えるのでしょうか。今回、この買収劇を専門家目線で解説するのは、財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズ代表取締役でiU情報経営イノベーション専門職大学客員教授の村上茂久さん。村上さんはツイッターの買収金額を3つの視点から分析するとともに、同社の未来についての考察を試みています。

プロフィール:村上茂久(むらかみ・しげひさ)
株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社CFO。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。

3つの視点から考えるイーロン・マスクによるツイッターの買収金額の妥当性とツイッターの未来

4月25日、ツイッターは、イーロン・マスク氏(以下、マスク氏)による買収提案を受け入れたと発表しました[1]。リリースによれば、マスク氏による買収総額は440億ドル、日本円にして、5.6兆円(2022年4月25日時点)を超えるほどの金額です。

時価総額が5.6兆円を超える金額は、日本の上場企業3,800社を超える中でも、23社しかありません(2022年4月26日時点)。この時価総額の前後の企業といえば、武田薬品(5.84兆円)、日立製作所(5.72兆円)、三井住友フィナンシャルグループ(5.35兆円)、セブン&アイ・ホールディングス(5兆円)等、それぞれの業界における日本を代表するトップクラスの企業ばかりです[2]。

この5.6兆円という金額は絶対額としてはもちろん大きいですが、この金額は高いか低いかどうかは、他と比較して相対的に把握することで初めてわかります。今回は、マスク氏によるツイッターの買収額について、①買収前の株価、②純資産、③利益の3つの視点から分析するとともに、ツイッターが非上場化された後について考察をします。

[1] Elon Musk to Acquire Twitter

[2] 出所:Yahooファイナンスにおける2022年4月26日時点の終値を元に算出された時価総額

どのぐらいのプレミアムを乗せてイーロン・マスクはツイッターを買収したのか

マスク氏によるツイッターの買収価格は、株価でいうと54.20ドルで買収に合意しています。

ただ、株価だけ言われてもこれが高いのか低いのかピンとこない方も多いのではないでしょうか。そこで、株価を会社の値段ともいえる時価総額へ置き換えましょう。時価総額は次のように計算されます。

時価総額=株価×発行済株式数

ツイッターの有価証券報告書(FORM10-K)[3]によれば、2022年2月10日時点の発行済株式数はおよそ8億株になります。この算式を元に、マスク氏の買収提案前の4月1日時点の株価39.3ドルから計算した時価総額とマスク氏の買収総額を計算し、調整を行った上で、比較したものが図表1になります[4]。

図表1

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(出所)Twitter, Inc. FORM10-K及びYahoo!ファイナンスより作成

このように、買収発表前の4月1日時点で38%近くと相応の高いプレミアムを乗せて、マスク氏はツイッターを買収したことになります。なお、企業を買収する際には株価に買収プレミアムとして30〜40%ぐらい上乗せされることが多く、そのことを踏まえると妥当な買収ともいえます。一方で、過去1年間でみるとツイッターの最も高い株価は、2021年7月時点の73ドルであり、時価総額にすると595億ドルです[5]。この水準からすれば、26%近く安く買収できたとも考えられます。

[3] Twitter, Inc. FORM 10-K

[4] 今回のマスク氏によるツイッターの買収は、株式100%の買収のため、発行済株式総数をそのままかけて計算をしています。なお、リリースでは買収額が440億ドルとなっているものの、発行済株式数800,641,166株と株価54.20ドルからそのまま時価総額を計算すると434億ドルになり、数字に誤差が出ています。おそらくですが、ツイッターの自社株買いの持ち分や4月3日にマスク氏がTwitterの株式の持ち分9%を購入した際の金額などにより、誤差が出ているものと予想されます。そのため、4月1日時点の時価総額も買収価格440億ドルにあわせて調整をした値になっています

[5] 脚注4と同様の調整をした値

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