誰が嘘をついているのか。郷原信郎氏が公表した美濃加茂市長収賄事件「再審請求」の要点

 

これに対して、控訴審裁判所は、Nの取調べ警察官の証人尋問とNの証人尋問を行っただけで、一審での各証人尋問、被告人質問の結果を公判調書のみで判断し、N供述が信用できるとして、藤井氏に逆転有罪判決を言い渡し、同判決が確定判決となった。

同判決は、

「勘違いや記憶違いは考えにくく、単純化すれば、Nが記憶どおり真実を述べていると認められるのか、意図的に虚偽の事実を述べている疑いがあると判断されるのかが問題である」

とした上、以下の第1から第5を、N供述の信用性を肯定する理由とし、一審判決の判断を覆した。

第1に、N証言の内容と授受の資金の流れ、現金授受に至る経緯との整合性について、「相当程度具体的かつ詳細で、その時々のNの抱いた感情や思いをも交えたものであり、その内容にも不合理な点は見当たらず、弁護人からの反対尋問にも揺らいでいない。このような点は、一般的には信用性を高める事情と考えられる」と判示し、

第2に、「Nの贈賄工作についての関連事実」として、藤井氏の美濃加茂市長選挙の際のNの応援としての「Tの宿泊費の負担」、Nが名古屋市の役人への贈賄資金として「Tに300万円を渡した事実」を認定して、「N証言の信用性を高める事情」と評価した。

第3に、Nが、第2授受の直前の時期に、Zに対し借金を申し込む際のNの発言内容、及び浄水プラントの実証実験が始まった後に、NがHを美濃加茂市立西中学校の浄水プラントに案内した際のNの発言内容を、Z及びHの供述によって認定し、信用性を高める要素として評価した。

第4に、Nの供述経過を、控訴審での取調べ警察官の証言に基づいて認定し、一審判決が疑問視した供述経過に関する問題は信用性を否定される理由にはならないとし、

第5に、一審判決が、虚偽供述の動機が存在する可能性を指摘したことに関して、融資詐欺についての捜査の進展を妨げたり、起訴や求刑等で検察官に手心を加えてもらおうという気持ちを持っていた可能性は否定できないが、それが虚偽かどうかは別問題であり、虚偽の現金授受の事実を捜査機関に供述したとした場合の疑問点として、虚偽だとするとかえって説明困難な点として、Nとしても、実際に犯してもいない贈賄という犯罪も加えて処罰を受けるおそれがある上、それによって融資詐欺の捜査・起訴が止められるという保証はないことが「極めて危険な賭け」であること、藤井氏に渡すという名目で50万円を借りたことと辻褄が合うように第2授受だけを話しておけば贈賄の事実を作り上げられたはずであるのに、わざわざそれよりも金額の少ない第1授受の件を付け足したことの説明が付きにくいことを指摘した。

上記第1から第5のうち、第1については、第一審判決が、

「検察官が入念な打合せを行ったため、Nの公判証言が、客観的な資料と矛盾がなく、具体的かつ詳細で、不自然、不合理な点がない供述となるのは自然の成り行き」

と指摘し、確定判決も、第一審判決の同指摘を踏まえて、検察官側の事前の打合せを控えさせて、証人自身の具体的な記憶に基づいて供述させることを目的に職権でNの証人尋問を行ったこと、しかも、その控訴審証人尋問で、Nが、検察官との打合せが「1ヶ月くらい、毎日朝昼晩」行われていたことを認めていることからすると、供述内容の具体性・詳細性・整合性などは、N供述の信用性を評価する上で重要な要素にはなり得ない。

上記第2の「Nの贈賄工作についての関連事実」についても、いずれも本件との関連性が極めて薄い事実である。

確定判決が、Nの公判供述について、第一審判決の判断を覆し、信用できると判断した主たる理由は、上記第3、第4、第5の3点である。

再審請求における新証拠は、H及びZの新供述と大橋靖史教授及び高木光太郎教授による供述心理鑑定書であるが、それらは、確定判決の証拠構造の根幹を動揺させるものである。

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