南太平洋に活路を求めた中国
5月31日、アメリカのバイデン大統領はホワイトハウスでニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相と会談し、太平洋への影響力拡大を図る中国に対する強い懸念を表明した。
それもそのはず、王毅外相が5月26日からソロモン諸島やサモア、キリバスなど太平洋8ヶ国を歴訪したことは、日本やアメリカの懸念を強めることになった。
このうち、ソロモン諸島は中国と安全保障協定を結んでいる。キリバスなどとも交渉段階にある。太平洋諸国もすべてが親中国とは限らないが、経済支援の見返りに中国軍機が自由に離発着し中国軍の艦艇も寄港できるようになれば、太平洋におけるアメリカ軍の優位は危うくなる。
陸上自衛隊元陸将、渡部悦和氏は言う。
「この地域を中国に抑えられれば、台湾有事が生じた場合、アメリカ軍はグアムやハワイの基地からおいそれと台湾支援に行けなくなる」
中国は、先に述べた北京冬季オリンピック開会式にカザフスタンなど中央アジア5ヶ国の首脳を招待した。そして今度は太平洋の島しょ国である。
ウクライナ支援をめぐる欧米の結束、そして中国包囲網に対処すべく、着々と打つべき手は打っている
中国を見るポイントとは
これまで述べてきた中国共産党大会の時期がいつになるか、ロシアとウクライナに関してどのように立ち回るかに加え、台湾や尖閣諸島近海での中国海軍の演習がどのような内容で行われるかもポイントになる。
中国海軍は過去にリアルな戦争をした経験がない。
5月2日、空母「遼寧」が、沖縄本島と宮古島の間を通って太平洋に入り、石垣島の南方、台湾に近い海域にとどまり、300回を超える艦載機の離発着訓練を実施したのは、海軍として実戦の習熟度を高まるためだ。
台湾侵攻の際、横須賀基地にいるアメリカの第7艦隊が東シナ海に入らないよう阻止する訓練であり、同時に、台湾の西側(中国本土側)からだけでなく、東側からも攻撃できるというブラフ(脅し)も意味している。
習近平総書記にとっては、内政外交ともに思うように進まない状態にある中国。
今は、中国共産党大会の公式な日程発表を待ちながら、「中ロ蜜月」関係の行方、そして中国軍の動きの中でも、特に海軍の動きは、3隻目となる空母進水も含め、注意を払っておきたいものだ。
著書紹介:ゼレンスキー勇気の言葉100
清水克彦 著/ワニブックス
清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール:
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。
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