習近平、3選に暗雲か。権力闘争&重鎮から異論噴出でピンチ、問われる中国経済失速の責任

2022.06.05
 

中国の政変は「上海から起きる」

中国の歴史をひもとけば、政変は「上海発」のケースが多々ある。

筆者がまだ駆け出しの外信記者だった1989年、天安門事件の5か月後に総書記の座に就いたのは、上海交通大学を卒業し、上海でエンジニアとして働き、上海市の党委員会書記という経歴を重ねた江沢民であった。

習近平総書記の時代になってからも、2018年7月、「習総書記と中国共産党の独裁に反対する」などとして、29歳の女性が習近平総書記のポスターに墨汁をかけたのも上海である。

中国には、江沢民を中心とする「上海閥」、胡錦濤を中心とする「団派」(中国共産主義青年団出身者)、そして習近平主席を中心とする「太子党」(革命元老の子弟の「二世議員」)の3派閥が存在すると言われてきた。

中でも結束力が強いのが「上海閥」で、逆に一番まとまりが良くないとされるのが「太子党」である。

上海は商都であり、そこで暮らす知識人の多くは世界を見て暮らしている。日本にたとえれば、幕末の長州藩や土佐藩に近い。今回も、その不満や疑念が強権的な習近平指導部に向かえば、また「上海発」で風が吹く可能性もある。

習近平にとって悩ましいウクライナ情勢

北京冬季オリンピック開幕直前の2月4日、習近平総書記とロシアのプーチン大統領が北京で会談し、「中ロ蜜月」を国際社会にアピールして見せた。

プーチン大統領は、オリンピック期間中にウクライナに侵攻することは避け、習近平総書記もまた、国際社会の要請に対して、ロシアを批判したり積極的に仲介に動いたりという姿勢は見せていない。

ウクライナへ侵攻後に開催された北京パラリンピックは全く目立たないイベントになってしまったが、中国は現在もロシアとの連携を維持している。

ただ、習近平総書記にとって誤算だったのは、強大な軍事力を誇るロシアがウクライナの善戦を許していることだ。しかも、欧米諸国が手をたずさえ、ここまで大掛かりにウクライナへの軍事支援、ロシアへの経済制裁を実施することは想定外だったろう。

また、アメリカのバイデン大統領が、5月23日、岸田首相との会談で「台湾有事の際は軍事介入する」趣旨の発言をし、翌日のQuad(日米豪印4か国の枠組み)首脳会合で連携強化を打ち出したことについても、「インド太平洋地域に新たなNATOができた」と映ったのではないだろうか。

特に欧米の結束は中国にとって最も望まない事態である。

中国にとってロシアは、アメリカなど西側陣営に切り込んでいく先兵であり、欧米のロシアに対する対応を見て、台湾統一のシナリオを描く腹積もりだったはずだ。

それが、ロシアの疲弊と欧米諸国の結束を見せつけられ、習近平指導部の中でも、「ロシアを支援する派」と「ロシアから距離を置く派」に割れたため、現在はひとまず中間を進んでいるというのが筆者の見立てである。

しばらくは実質的にロシアを支援しながら、国際世論上はロシアとの一体化を避ける作戦を続けることになるのではないか。

いずれにしても、欧米が結束し、中ロと対立する構図になれば、中国の国際社会における生存空間は狭まり、影響力も厳しいものになる。軍事的な面だけでなく経済的にも持続的発展は難しくなる。

とはいえ、ここで中ロ関係を見直せば、習近平外交の否定につながり、3選に反対する声が高まりかねない。

習近平総書記からすれば、ロシアとウクライナ、どちらが勝利しようと、ロシアがこれ以上疲弊せず、しかもプーチン体制はそのまま続くことがベストなのだ。

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