プーチンでもゼレンスキーでもない。ウクライナ戦争の真の勝者

 

アメリカの一般的な世論は、ウクライナ戦争の膠着化と共に熱狂から覚め、主要な関心は、物価・家計への影響と、相次ぐ銃犯罪に対する“身の安全”に移り、今では「いち早く、アメリカはロシア・ウクライナ問題から手を退くべき」という意見まで聞かれるようになってきているようです。

1991年の湾岸戦争を機に、戦争が生中継され始めて以降、戦争をめぐる一般市民の心理の変遷パターンができました。

当事者意識のない“だれかの戦争”に逐次触れ、VRを見ているかのように戦況を追うことで興奮と熱狂がまず起き、“弱者”が圧倒的な強者に対して抵抗する様をみてエールを送り、感情移入が始まり、寄付をはじめとする支援に参加が一気に高まります。

しかし、戦争が膠着化すると、陶酔と失望が繰り返され、徐々に自身に降りかかってくるコストの大きさに目が覚めて、疲労感が一気に襲い、そしてついには飽きてくる…。

今回のウクライナ戦争でも、この特有の心理的サイクルが各国で目立つようになってきました。

特に軍事的な地上戦が一進一退の状況になり、情報戦も内容の嘘が暴かれ始めると消耗戦の特徴を帯びてきて、「やはりロシアは強いのではないか?いくら支援しても、一向に倒れない」という意識が芽生えることで、孤立しているはずのプーチン大統領に追い風になるとの恐怖感も芽生え始めているようです。

「これ以上、プーチン大統領を苛立たせないほうがよい」とウクライナ支援とロシア攻撃のレベルを低減させる国々と、ポーランドやバルト三国のように、直接的なロシアによる侵攻の恐怖からハードライナーを継続する他ない国々というように、対ロ包囲網にもほころびが目立つようになってきています。

それをロシア政府やプーチン大統領が上手に利用できているかは分かりませんが、このようなカオスの中で唯一、外交上、絶妙な立ち位置を確保し、自らの利益拡大に移っている国が存在します。

それは、中国ではなく、エルドアン大統領のトルコです。

トルコは、ロシアによるウクライナ侵攻当初、その中立的な立ち位置をアピールして和平協議を仲介し、今でもNATO加盟国とは距離を置いて、対ロ制裁には参加せず、今でも従来通りの関係を継続しています。

ロシアからの直行便がイスタンブール国際空港に毎日運航され、ビザなし渡航を相互に認めることで、ロシアからの人材と企業の受け入れが進んでいます。プーチン大統領の方針に嫌気がさした高学歴で高スキルな若い人材をどんどんトルコに受け入れ、ロシアの投資先となることで、ウクライナ戦後の世界でもロシアとの良好な関係を築く基盤を確保しています。

そしてここにロシアが生きながらえているトリックが存在します。トルコはEUへの加盟を諦め、代わりにEUと関税同盟を締結していますが、これによりトルコがロシア系企業にとって国際的な調達と販売の窓口となっており、対ロシア制裁の大きな穴を提供しているようです。

対ロシア制裁を強化してきた欧米諸国の陣営は、この“穴”を塞ぎたいと願っていますが、欧米諸国からのアピールと要請が高まれば高まるほど、エルドアン政権は対欧米諸国の外交的交渉カードを多く持つことに繋がっているという仕掛けです。

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