在来線切り捨ては確実。新幹線をゴリ押しする「JR」の傍若無人な企業体質

 

佐賀県の反対

「佐賀県は新幹線の整備をこれまでも求めていないし、今も求めていない…」(杉山淳一(*3)、2019年5月17日)

この発言は、2019年の4月19日、政府与党の長崎新幹線検討委員会においての、佐賀県知事の発言だった。

そもそも従来から佐賀県は、西九州新幹線に反対の立場。費用対効果や負担金が理由でもある。

費用対効果という面では、明らかに佐賀県のメリットは少ない。現在、博多-佐賀間は特急「かもめ」で37分。新幹線が開通しても、22分。

それを実現させるための佐賀県の負担は約1,200億円。実質的な負担金は660億円程度とはいうものの、一貫して佐賀県は新幹線に否定的な立場だ。

西九州新幹線の建設は、1972年の全国新幹線鉄道整備法に基づく。ルートについては、1973年に「博多-筑紫平野(新鳥栖)-佐賀市付近-長崎」と定められた。

1985年には、国鉄がルートの具体案を提示。ただ、当時のルートは早岐経由で、佐世保市への配慮があった。佐世保市は、試験運転中に放射線漏れ事故を起こした原子力船の「むつ」の修理を受け入れたためだ。

しかしながら、1987年に国鉄が分割民営化されると、整備新幹線の建設の枠組みが大きく変わる。国鉄時代は国策に沿って新幹線を受け入れるけれども、JRの時代に入ると、民間会社であるため、国策は強制できない。

まずは新幹線の受け入れについては、JRの合意が必要になることとなった。

すると、JR九州は、「国鉄案では合意できない。早岐経由では遠回りで採算が取れない」とし、現在のような短絡ルート、フル規格新幹線ではなくスーパー特急方式を提案する。

スーパー特急の方式は事業費が小さく、在来線にも直通できるメリットがある。将来は、フル規格への昇格も可能だ。さらに北陸新幹線長野-金沢間、九州新幹線鹿児島ルートもスーパー特急方式で建設予定だった。

1992年になると、運輸省は、博多-鳥栖-佐賀-武雄温泉を在来線経由で、武雄温泉-長崎間をスーパー特急用の新線に直通させるルートを策定。これについては、国とJR、路線自治体の合意が得られた。

一方、新幹線の建設予定自治体からはフル規格での要望が高まる。実際、北陸新幹線と九州新幹線鹿児島ルートはフル規格新幹線で建設が決まった。

しかしながら、鳥栖-佐賀-武雄温泉間はそもそも在来線の直通を念頭に置いているため、このままではフル規格化はできない。

大きな混乱を呼んだのは、フリーゲージトレインの実用化をめぐるトラブルだ。フリーゲージトレインならば、武雄温泉-長崎間をたとえフル規格に昇格させても、あくまで博多-武雄温泉との間は在来線の直通の枠組みは保持できる。

そこでいったんは、フリーゲージトレインの採用が正式に決まり、武雄温泉-長崎間はフル規格となった。ところが、フリーゲージトレインは開発が遅れ、国は実用化を断念。

しかも、もともと実用段階にない技術を前提とした建設計画も甘かった。

すると、佐賀県が強硬な立場に転換。佐賀県としては、フリーゲージトレインが実用化されないならば、「その前の段階」に戻るべきと考えた。

つまり、フル規格の新幹線として工事中の武雄温泉-長崎間をスーパー特急方式に戻せ、と。

佐賀県としては1992年の合意にあくまで忠実であるだけだ。すなわち鳥栖-佐賀-武雄温泉間にフル規格新幹線をつくるとすれば、JR九州との合意はできているだろう。費用対効果の算定もフル規格が有利とする。

しかし、「沿線自治体とJRの並行在来線の処理の合意」について、話し合いすら行われていない。それならば、そもそも整備新幹線の着工条件を満たしていなのだ。

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