欧州で加速するウクライナ“忘れ”の現実。なぜ熱狂は一気に覚めたのか

 

今回、私が久々にドイツにきていることを聞きつけて、新幹線でアクセス可能な欧州各地から友人たちが集まってくれました。ボンはさすがに少し不便なので、各地からの新幹線が乗り入れるケルンで会いましたが、今回のウクライナ紛争がいかに欧州社会に暗い影を落とし、各国に影響を及ぼしているかを知ることが出来ました。

またNATOの拡大に潜む欧州のジレンマについても話を聞くことが出来ました。トルコが180度方針転換をして、スウェーデンとフィンランドの加盟手続きが急ピッチで進んでいますが、これはトルコを翻意させるには時間が掛かるだろうが、揉めている間にできる準備をしておこうという方針が功を奏している“だけ”だそうです。

しかし、NATOへの両国の加盟に対する加盟国からの支持は、アメリカ国務省が集めるというNATOの構図にも見られるように、欧州の安全保障がいまだに大きくアメリカの抑止力に依存するという“変わらない形式”を明らかにしているという点には、欧州各国の政府はとても不思議な感覚を感じているとのことでした。特に欧州独自の防衛体制を提唱してきたフランス政府については、国内での政争の材料にも挙げられているようですし、NATO本部がある国際都市・ブリュッセル(ベルギー)やオランダ、そしてドイツも違和感を持たざるを得ないという声は、認識しておく必要があると考えます。

特に日本の首相として初めてNATOの首脳会談に出席した岸田総理は、今後もNATOの首脳会談に参加することを表明していますし、実際に日本の政府代表部もすでにありますので、このようなNATO内部の不思議な力の構造と加盟国の深層心理についても認識した上で、域外国としていかに振舞うかを慎重に決めておかないと、ウクライナでの紛争が一段落した後の対応に窮することになるかもしれません。

特にNATOの域外のマターである中国対応とNATOを結びつけることを、アメリカと共に意図するのであれば、具体的にどのように適用できるかを明確に理解し、政府内でシェアされていなくてはなりません。恐らく官邸や外務省、防衛省内ではすでにしっかりと検討されていると思われますが。

ウクライナに対する欧米諸国の対応の温度差を理解し、国際社会における分断の拡大と明確化を認識したうえで、今後、日本がどのような外交を展開するか、そして不安定要素満載の北東アジア地域における安全保障問題をいかに国際情勢の範疇で具体的に考え行動するのか。今週末に参議院選の結果が出たら、日本は迅速に行動可能な方針を練り、示し、stand readyの状態にしておく必要があると考えます。

また長くなってしまいましたが、以上、国際情勢の裏側でした。

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