欧州で加速するウクライナ“忘れ”の現実。なぜ熱狂は一気に覚めたのか

 

今回、友人の計らいで、以前も出演させていただいたDeutcheWelleのニュース・討論番組に出していただいたのですが、内容は紛争そのものの話ではなく、“ウクライナ後の国際情勢”や“欧州統合に向けた次の展開”といった内容が多かったのが印象に残ります。

その中で「ウクライナがEUの加盟候補国になったのはよい流れで、それなりのメッセージをプーチン大統領に送ったのだとは思うが、ウクライナが本当にEUの加盟国にふさわしいかと尋ねられたら、それは疑問だ。あくまでも欧州としてロシアによる蛮行に対する一致した抗議であり、意思表示であり、ウクライナの人々との連携を示す例だと思うが、EUとして、現在の紛争が終結した後、ウクライナの復興の責務を負うことができるかと尋ねられたら、それはまた別の次元の話だろう」といった意見が出たことは、現時点でのEU、特にドイツが抱えるジレンマを示した例ではないかと思います。

またある専門家は「ウクライナが欧州かと言われたら疑問だ。ロシアへの抗議とウクライナへの連帯の熱で現実を見失ってはいけない。ウクライナの前に、まだ多くの国の加盟について考える必要がある。その順序に特例は存在するべきではない。そろそろ冷静になることが必要。特に現在のウクライナでの戦争が終わった後、EUがどの程度、その復興に携わるかという度合いについては、注意しないといけない。EUが負担することは、同時にドイツへの負担を意味することを忘れてはならない」と述べ、「ロシアへの依存度を下げるという流れには大賛成だが、果たして私たちはどこまでそれができるのかについて、冷静に考え、対処しないといけない」と警鐘も鳴らしていたことはとても印象的でした。

私からは「ウクライナ紛争に対しての関心が下がっているのは、残念ながら世界的なトレンドだと思う。また今回のロシアによる侵攻に対する国際社会の分断が明確化されたこともとても気になる。欧米諸国とその仲間たちは、程度の差こそあれ、ロシアに対する制裁措置に参加しているが、アジアやラテンアメリカ、アフリカ、中東などの“ほかの地域”に目を向けた時、今回の紛争に対する姿勢は大きく異なる。一方的な侵攻に対しては非難の声が強いが、制裁措置については距離を置き、巧みに欧米とロシア・中国陣営との間でバランスを取ろうとしている国が多いように思われる。国を名指しするのはあまりよくないと思われるかもしれないが、その中でも特にこれまでのところうまく振舞っているのは、トルコとインドだろう。どちらにも意見が言える国として、国際社会における発言力が高まっている。今回の戦争が長引くと思われる中、いかにこれらの国々との距離感を測り、対処していくかがとても大事になるだろう」と述べました。

また「私から警鐘を鳴らしたいのは、あまりにも私たちの目がウクライナに向き過ぎて、他の地域で起こり、悲劇を生んでいる紛争や案件への対応が疎かになっていることだ。以前、あれほど騒いでいたシリア問題は、トルコとの取引材料に使われ、根本的な問題を意図的に見過ごしてはいないだろうか。また、人権問題で大騒ぎしたミャンマーの内戦状態や、解決の糸口が見えず、ジェノサイド案件との批判も出たエチオピアのティグレイ紛争も、対応を要するトップアジェンダから外れている。実際には異常気象による食糧難も悪化しており、衛生状態の著しい悪化もあるにもかかわらず、UNをはじめ十分な対応ができているとは言い難い。ほかにも南スーダンの人道的危機なども急を要する案件だと思うが、十分に注意を払えていない。食糧危機を悪化させているのは、これまでアフリカの国々が依存していたウクライナ産の穀物、特に小麦の供給が途絶えていることも大きな原因だが、今回のロシアはずしによってマヒ状態に陥っているUN安全保障理事会の状況も大きな元凶と言える。UN安保理の件については、ロシアや中国を非難するのは簡単だが、非難したところで動かないこともよくわかったはずなので、早急に実効性のある対応策を練り、実施しないといけないだろう。現在起こっている国際社会の分断とブロック化は、残念ながら不可逆的なものに思える」と述べました。

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