米欧は中国に負ける。元イギリス首相が講演で口にした驚愕の内容

 

この事態は、ブレアだけでなく英米エスタブが全体として、ネオコン系の左右の勢力が仕掛けた集団思考的な「超愚策の罠」にはまって出られなくなっていることを示している。ブレアの講演は、英米の覇権崩壊と中国の台頭、2極化・多極化を示した点で画期的だが、同時に、英米エスタブが今後さらに自分たちの経済力や覇権を自滅させ、中国など非米諸国の相対的な台頭と多極化を誘発してしまうに違いないことも示している。

欧米中心の世界は終わる?

英国自身、先日辞任表明したボリス・ジョンソン首相の後任首相を決める保守党の党首選挙が進んでいるが、今残っている2人の候補のうち、リズ・トラス外相が勝つと、トラスはネオコン系(隠れ多極主義)で、露中を徹底敵視して英国と米国側をさらに自滅させる策をとる。リシ・スナク前財務相が勝つと、英国はEUに再加盟する試みをやるかもしれず、ジョンソン首相はスナクの当選を全力で阻むことを宣言している。英政界ではEU離脱や露中敵視など自滅的な策を進める勢力が強く、英国が黒幕をしている米国側が、中国など非米側の覇権拡大を阻止して米英覇権を維持することはほぼ不可能になっている。

Boris Johnson takes revenge on Rishi Sunak
Boris Johnson claims ‘deep state’ plot against Brexit
英国をEU離脱で弱めて世界を多極化する

日本からみると気になることがもう一つある。ブレアは今回の演説で「近代史上初めて東洋(East)が西洋(West)と肩を並べうる状態になった」と言っている。ブレアは同時に、日本を西側民主諸国の一つに列挙しており、日本は西洋(米国側)の一部という認識らしい。しかし、ふつうに考えて日本は「東洋」である。戦前の日本は、東洋の新興国・地域覇権国として、西洋をしのぐ存在になろうとしていた。日本は冷戦時代に「西側(親米側)」だったが、それと「東洋・西洋」の区分は違う。日本は、漢字文化圏だし儒教っぽいし、神道や仏教や稲作に包まれており、理性より情緒で、一神教がはびこる西洋と異なるやおよろずの東洋の国である。日本は民主主義国を自称するが、実のところ誰が議員になっても官僚が実質的に支配する官僚独裁の国だ。ほとんど企業や学校は、表向きだけ民主主義で、実は権威主義だ。戦後の日本は対米従属策として、なんちゃってな西側民主主義をやってきただけだ。自民党と中国共産党は、意外と似ている。

米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本

となりの中国は覇権を拡大しており、ブレアも暗示しているように米英は中国・非米側に敗北することがほぼ確定している。米国が衰退すると、対米従属は無意味になる。すでになっている。これから米国で共和党が復権したら、同盟諸国に対する軽視が激化する。米国が衰退して中国が台頭するなら、日本も、対米従属とか西側民主主義をこっそり捨てて、中国と同じ「東洋」の側に入るのも「あり」になる。日本人の多くは、マスコミ権威筋による対米従属プロパガンダの一つである「嫌中」に染まっており、「中国と一緒に東洋に入ったらどうでしょう」などと言うと、とたんに「アカ」呼ばわりされる(今や日本共産党・アカも嫌中だけど)。しかし。

米エスタブが言うなら良いのか。フランシス・フクヤマ「多極化世界と日本」

しかし、予測として書いておきますが、日本にはいずれ「中国と一緒に東洋に入るのが良い」と言い出す人々が、アカ・左翼でなく、右派・ナショナリストの方から必ず出てくる。早く出てこい。日本は、中国と一緒に東洋に入るのが良い。その方が発展する。これは日本のために言っている。アカでも黄色でも塗ってください。

(無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』2022年7月21日号より一部抜粋・敬称略)

image by: Shutterstock.com

田中宇『田中宇の国際ニュース解説』

『田中宇の国際ニュース解説』

著者/田中宇(国際情報解説者)記事一覧メルマガ

国際情勢解説者の田中宇(たなか・さかい)が、独自の視点で世界を斬る時事問題の解説記事。新聞やテレビを見ても分からないニュースの背景を説明します。

  •  この著者の最新記事をメールでお届け

  • 規約に同意して

print
いま読まれてます

  • 米欧は中国に負ける。元イギリス首相が講演で口にした驚愕の内容
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け