すべてが完璧。エリザベス女王という君主が成し遂げた3つの功績

 

皇位継承順位1位の方で、2位の父親である方が、自身は帝王教育を全く受けていないと公言しています。またそのコメントの中での帝王教育とは歴代天皇の歴史を中心とした理解のようでもありました。

またその2位の方への教育については、その母親などの意向から国立の高校に進学して東京大学に進むという方針があるようです。私は東大は反天皇制の学問の拠点ですから、皇位継承者がそのような環境の洗礼を受けるのは、それはそれで興味深いということを述べたことがあります。全くの嘘ではありませんが、半分以上は冗談です。

皇位継承者が今でも意味不明な「最高学府」というプライドを自他から任じられている東京大学に進むということは、「臣下と競う」ということを意味します。そうした発想自体が、立憲君主制を「分かっていない」ということであり、本人はともかく、周囲にそのような認識があるということは危険信号に他なりません。

まして、世論は今や分裂しており、法的根拠を無視して現在の天皇の直系女子への相続を望む声が半数あります。また、皇位継承者が足りない場合は、男系の遠戚を持って据えるべきという声も小さくありません。

問題は、そのように争っている場合ではないということです。君主というのは、歌舞伎役者やバイオリニストのようなもので、長じてから基礎訓練を施したのでは、どうしても必要なスキルを揃えることができません。そのスキル不足は、人格力の不足につながり、結果的に能力が足りないまま即位するということは、自身と国全体を不幸にします。

まして、英国よりも更に皇族の社交スキルに依存している日本の場合には、政界には社交を含めた外交スキルのある政治家は多くありません。仮に皇族がそのスキルを失い、政治家もダメとなれば、それこそ明治の鹿鳴館のような屈辱外交とか、不動産屋の大統領が何もかもを壊しまくった米国のような混乱に陥る可能性があります。

厳密に言えば、日本の制度は「象徴天皇制」であって「立憲君主制度」ではありません。何が違うのかというと、「政治的関与についてはより厳格に抑制し、痕跡を絶対に残してはならない」「それ故に、より高いスキルが必要」ということです。

それはともかく、宮内庁の上層部に警察官僚が多いのも、非常に気になります。現状維持を目的に、統制をかけるのは実務的には否定はしません。ですが、そうした発想法の延長には君主候補の訓育というのは成立しません。そもそも、日本の場合は侍従とか内府といった職責についても、専門スキルではなく「中立で誠実」などといういい加減な人物評価で任命してきた伝統があります。非常に脆弱であり、恐ろしいことだと思います。

エリザベス女王の崩御は、もしかしたら英国の君主制の「黄昏」、つまり「終わりの始まり」になるのかもしれません。仮にそうであれば、それは宿命であるとは思います。そして、そのような宿命は日本の場合も真剣に考えていかねばなりません。

ですが、日本の場合はどう考えても、社交スキルにしても、国民統合ということにしても君主のスキルが消滅した場合には、カオスしか残らないような恐怖を感じるのです。政治家や官僚の社交スキルを一定に保つ「知恵」が絶無ということもあります。それはともかく、エリザベス女王の訃報は、それだけ時計の針が「21世紀の中葉へと残酷に時を刻んでいる」ことを示しています。

その上で、日本は一体その国の「かたち」をどうしようというのか、フルセットでのスキルを持っておられるように見える今上の安定感に甘えて、次代のことを考えない、ましてその次やその次の次については「なるようになる」では全く済まされないものがあるように思います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年9月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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