すべてが完璧。エリザベス女王という君主が成し遂げた3つの功績

 

更に、本稿の時点ではそろそろ棺がイングランドに移動して、今度は公開弔問が続いた上で、19日(月)には国葬となります。この国葬では連合王国の威厳が示されるわけです。とにかく、このような亡くなり方、そして葬送の仕方の中にも、立憲君主制の連合王国としての「国のかたち」が正確に投影されており、その全てが故人自身の希望をベースに周囲との調整を経て、故人によって計画されていたということのようです。

勿論、全てを故人一人で考えたわけではないでしょうが、そうした儀式の全般に故人の人格が徹底され、その人格というものが私人ではなく、公人として擬人化された国民国家の求心力として有形無形の影響力を発揮しているわけです。その意味で、やはりこのエリザベスという人は、立憲君主制という政治制度を完成した人物であるという評価ができます。

問題は、しかしながら、この立憲君主制という制度は維持が大変に難しいということです。

2つの大きな問題があります。1つは、民意です。現代の人類社会では、基本的に人間は皆平等という思想が隅々まで貫徹しています。そんな中で、王族という貴顕の一家というものを認めて、そこに国費を投入するには、よほどの効果がないと理解が得られないというのが実情です。常に厳しい民意の監視に耐え、それでも自身の一生を国家に捧げて、何とか棺の蓋を覆う際には民意に許される、これが現代の立憲君主というものです。

もう1つは、その「中の人」という問題です。このような環境で、民意の指示を取り付け、統治は禁じられつつも、君臨しなくてはならない、従って具体的には超人的なスキルを要求されるのが現代の君主です。

まず社交に関しては、シェイクスピア俳優であり、アナウンサーであり、機転のきくパーティーの花形であり、しかも多くの国の異文化に対応し…となるとこれは超人的な能力になります。

政治に関しては、発言はできないにしても、週一回の首相謁見の際には国家の重大事項に関しては100%理解して、首相に対するシリアスな聞き手、励まし役になる、これもまた超人的な能力が必要です。

加えて、王室という巨大で複雑怪奇な無形文化財を、その長として自分も役割を演じつつ、組織の維持をしてゆかねばなりません。現場の最前線にいながら、同時にCEOである必要もあるのです。

勿論、こうした能力の全てを、この女性は即位した25歳9ヶ月の時点で身につけていたわけではありません。勿論、父君ジョージ6世からの「一子相伝」があり、祖母メアリ・テック妃の厳しい訓育もあったでしょう。最初の主席個人秘書官であった、アラン「トニー」ラセルス卿という厳しい宮廷官吏に頼った面も大きかったようです。

ですが、そうした環境に加えて、やはり本人の資質と決意があって初めて、人類史上に永遠に名を残すであろう、君主制度の体現者が成立したわけです。

問題はそのような人物をいかに見出し、育てるかという問題です。

英国の場合は、即位したチャールズ新国王は既に人生のベテラン域に達している方でもあり、結果をどう出すかは本人次第とするしかありません。ウィリアム皇太子にしても、人格としては既に完成されている年齢です。

非常に気になるのが、日本の場合です。現在の状況は危機感を通り越して、恐怖を覚える状況と言えます。

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