涙の弔辞で国葬「政治利用」に成功。再登板を狙う菅義偉元首相“次の一手”

 

安倍氏の死後、菅氏もまた、不完全燃焼だった総理への返り咲きをひそかに狙っているフシがある。「何もしない」とレッテルをはられた岸田首相と対比し、ワクチン接種の推進や携帯電話料金の値下げなどで示した実行力が一部メディアで評価されたのも、菅氏の自信を深めている。

菅氏は無派閥を通してきたが、今夏の参院選後に25人規模の政策勉強会を発足させる予定だった。しかし、安倍元首相の死という厳粛な状況を考慮し見送った経緯がある。

その意味で、国葬は一つの区切りである。国葬が終わり、一定の期間を経て、勉強会が立ち上げられる可能性が高い。この勉強会には菅氏に近い小泉進次郎氏ら無派閥議員のほか、麻生派の河野太郎デジタル大臣が参加する。二階派や森山派からも馳せ参じる議員がいるだろう。

筆者の見るところ、菅氏は自身の再登板を前提に、流動化しつつある安倍派にも触手を伸ばし、一大勢力を作りたいと思っているに違いない。

言うまでもなく、岸田政権は麻生派、岸田派、茂木派の三派が党内主流を形成している。安倍派の弱体化は政権基盤を強めるチャンスでもあったが、保守派の取り込みに焦って安倍元首相の葬儀を国葬とした後に、次々と統一教会問題が噴出し、「黄金の3年」どころか、政局の成り行きによっては、解散総選挙もありうる事態に陥っている。

菅氏にとっては、不意に転がり込んできたチャンスである。うまくやれば、いったん手放した権力を奪回できるかもしれない。安倍路線を引き継げるのは自分だけと言って働きかけたら、安倍派から菅氏になびく議員も出てくるのではないだろうか。

もちろん、菅氏には敵も多く、党内の再編には老獪な力を必要とする。そのような場面では、二階氏の存在がモノを言うだろう。そもそも、有力派閥の領袖に話をつけ2020年9月に菅政権を誕生させたのは当時の幹事長、二階氏である。

その二階氏は幹事長退任後、表舞台から遠ざかっていたが、9月16日に行われたCS番組の収録で、久しぶりの“二階節”を吹かせ、存在感を示した。

安倍元首相の国葬について。「欠席する人は、後々、長く反省するだろう。世の中にあまり賢くないということを印象づけるだけだ。選挙で取り戻すのは大変だぞ」。相変わらず人を食った発言。なぜか自民党のセンセイがたは、この手の人物に弱い。

苦境に立つ岸田首相はどうするのか。このところ岸田首相の懐刀、木原誠二官房副長官あたりから「10月解散説」が囁かれているという。もちろん、支持率が下がっているだけに、総選挙となれば、かなり議席を減らすだろう。しかし、野党は弱体なうえに、準備不足だ。負けることはない。選挙で「みそぎ」をすませれば、支持率も上昇に転じるのでは。そういう甘い観測らしい。

ただし、統一教会との深い関係が明るみに出た萩生田氏、下村氏ら安倍派の面々や、後出し公表の連続で往生際の悪い山際大志郎経済再生担当大臣(麻生派)らは苦戦するだろう。安倍派や麻生派の反発を覚悟で岸田首相が解散を決断できるかについては、少なからず疑問が残る。

いずれにしても、2年後の24年9月には自民党総裁選が予定されている。支持率が低迷したままでは、岸田首相の再選は難しい。前述したように、菅氏が虎視眈々と復権を狙っているのだ。カギとなるのは、麻生副総裁がしっかりと岸田首相を支え続けるかどうかだ。

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