この橋に対するプーチンの思い入れは強い。2015年のクリミア併合の翌日には橋の建設を宣言している。2018年の開通式には大統領自ら大型トラックのハンドルを握って橋を渡り、セレモニー会場に登場している。ウクライナ戦争開始時でも、クリミアの防衛を増強し、橋の警備を強化してから侵略に及んでいる。
危惧するのは、この爆発事件を理由に、プーチンが最悪の手段に出ることだ。開戦や戦略の変更などにおいては、盧溝橋事件などでも同様だが、事実や正義が犠牲になることが多々ある。メドベージェフ元大統領は「仮に、クリミアを攻撃するようなことがあれば、敵に対して核攻撃も辞さない」と発言したとも伝えられている。
ロシアにおいて、歴代の首脳や大富豪の保養地としてクリミアは豊かさの象徴だ。そのクリミアと本土を結ぶ橋は、戦争開始後は物資の重要な補給路であり、ロシアの繁栄の象徴のひとつともなっている。
プーチンはクリミアにおいて一切妥協を見せる気配がなかった。そもそも、過去20年余の統治で、プーチン大統領が後退するような政策を採ったことも一度もない。世界中を敵に回そうとも前進するだけなのだ。とくにクリミアではそうである。
そのクリミアが攻撃されたのだ。最初にロシアがウクライナへ侵攻したのが問題だという理屈は通用しない。プーチンにとっては、橋が爆破されたという事実だけがあるのだ。
核の使用はいかなる理由があろうと絶対に避けられるべき手段だ。それは、人類全体の悲劇の始まりであり、誰もが願っていない悪手なのだが、時に感情が理性を超えるときがある。健康問題を取りざたされているプーチン大統領が合理的な判断を放棄することがないなどとは誰も言い切れない。
ロシアは爆破事故調査終了後の報復を示唆している。報復の内容はなにか、それが最大の焦点だ。
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