台湾の統一地方選挙で蔡英文総統の与党・民進党が大敗した「意味」

 

結果が示しているのは、蔡総統がいくら対中警戒を煽るだけで政権に留まろうとしても無理があるということだ。対中の一本足打法では、もうそろそろ神通力も尽きてきたといえるのだろう。

思い出すのは4年前である。前回の統一地方選挙に続き、今回は2回目の統一地方選挙敗北である。この審判は、与党・民進党が域内経済を向上させ、島民の暮らしの改善を進める民政に関わる問題で、有権者の満足を勝ち取ることができなかったことを意味している。党としては致命的な欠陥だ。

そうなれば問題はアジア全域の不安定化へと波及しかねない。内政で島民を満足させられない蔡政権が、対中国で存在感を発揮しようとしてさまざまな仕掛けを繰り出せば、それに刺激された中国が反応し、台湾海峡の波が高まることが予測されるからだ。

思い出されるのは、前回の統一地方選挙後に台湾で吹き荒れた高雄市長、韓国瑜旋風である。韓氏の人気が爆発した当初、蔡英文の総統再選は絶望視された。しかし、その後に起きた香港のデモで、島民に対中警戒心が一気に高まり、民進党と蔡英文は支持率を急回復させ、総統選挙にも勝利できたのである。

トランプ政権末期に高まった米中対立やそれによって製造基地が中国から台湾に移る動きが高まり、台湾経済に追い風となったことも響いたはずだ。だが、再選されてから約4年が経ち、蔡政権は再び内政の問題で疑問符を突き付けられてしまったのである。

一方、中国への警戒では島内には変化が起きていた。ナンシー・ペロシ下院議長の訪台で、政権の支持率が落ちたことは典型例だが、そうした過激な選択への嫌気に加えて、持続可能性にも疑問符がつけられるようになったからだ。

ここ数年、自由と民主主義の旗印を掲げて多くのアメリカの議員が台湾を訪問した。またリトアニアなど、台湾との交流のレベルを上げる国も目立った。しかし、こうした動きが台湾の人々を単純に勇気づけてきたかといえば、決してそうではないのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年11月27日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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