威光に翳りも。プーチンのウクライナ軍事侵攻は、結局「失敗」だったのか?

 

まだまだ余力があると言われ、かつ常に核兵器使用の可能性をちらつかせることでNATOの介入をあるラインで止め、大国同士の破壊戦争に至りかねないロシアへの武力攻撃を予防することには成功していますが、ロシア軍およびロシア経済に対する打撃はかなりの規模に達しているのも事実です。そしてその打撃の大きさが、ロシア国内におけるプーチン大統領の支持層の結束を揺るがしていると言われています。

穏健派はプーチン大統領のもとを去るか、ラブロフ外相や中央銀行総裁のように盲目的に従うかに分かれていますが、その影響力・発言力は日に日に弱くなってきており、代わりに核兵器使用も厭わず、ウクライナの消滅さえ進言するような強硬派(超強硬派)が影響力を増しています。

前大統領のメドベージェフ氏はその一人と目されていますが、彼の過激な発言はプーチン大統領とのユニゾンとも言える状況で、仮にプーチン大統領の体制転覆を狙っても、後には同じく、またはそれ以上の過激派が控えているということを国内外にアピールする狙いも含まれていると、ロシア・ユーラシア政治の専門家グループは分析しています。

最近、メディアではプーチン大統領と彼の“料理人”と称されたワグネルの指導者エフゲニー・プリコジン氏との確執が伝えられていますが、それはどうも情報戦のための材料であり、実際には協力関係は深まっており、対ウクライナ攻撃のレベルが一段階上げられる兆しではないかと思われます。

統合参謀本部議長のゲラシモフ上級大将を総司令官に据え、ロシア軍のミサイル攻撃、爆撃および核戦力サイドの攻撃レベルを上げ、ワグネルに東部・南部での地上戦を任せ、予備召集兵をそちらにつけて攻撃力を上げるという形式をとっていると分析されています。

言い換えると伝統的なランドパワーとしての戦闘はワグネル中心の陸上部隊に任せ、大規模な攻撃と中長期的な打撃を正規軍に任せたとも言えるでしょう。

プーチン大統領が昨年秋から戦略上のレベルアップを行ったウクライナのインフラと補給路の破壊攻撃は、前任の総司令官で現副司令官のスロビキン上級大将がはじめ、それをゲラシモフ総司令官が継続・拡大し、隣国ベラルーシ軍とも連携してウクライナを包囲する作戦を指揮しているようで、今後この攻撃はさらに激化するものと思われます(そしてまだスロビキン上級大将も失墜しておらず、実際に作戦の指揮を執っているようです)。

ベラルーシ軍と組んで行われる可能性がある戦闘方式では、ターゲットはポーランド国境地帯の補給の玄関リビウ周辺はもちろん、首都キーフ周辺、そして決して看過できませんが、再度チェルノービレ(チェルノブイリ)原子力発電所がリストに入っているとされます。

軍事的にはこれを防ぐためだと考えられますが、ドイツが重い腰を上げてついにドイツが誇るレオパルト2戦車をウクライナに提供することが決定されたようです。

実際の戦場への投入は日本のゴールデンウイーク頃になると言われていますが、その性能から戦局を大きく変え得る材料になると言われています。

しかし、見落としがちな点は、このレオパルト2戦車を実際に操縦するのは、高度に訓練されたドイツ兵・ポーランド兵ではなく、ウクライナ兵であるという点です。アメリカが供与することを決めたとされるエイブラムス戦車(31基?)と共に、ドイツ国内の米軍基地(NATO)でウクライナ兵を訓練することになっているようですが、両戦車が持つキャパシティーをどこまで最大化できるかは未知数です(そして実際に何基供与されることになるのかによっても変わってきます)。

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