威光に翳りも。プーチンのウクライナ軍事侵攻は、結局「失敗」だったのか?

 

ではロシア・プーチン大統領はどこに力点を置こうとするでしょうか?

上述の緩衝地帯案は、“今回”の特別作戦の落としどころとしては受け入れ可能なアイデアになるでしょうが、そこにはbig ifが必ず付きます。

それは「クリミア半島、ドンバス地方、ウクライナ南部のオデーサ周辺などをおさえている状況を現状と設定し、その状況を固定化する」という内容です。

ウクライナとしては絶対に受け入れられない条件となるでしょうが、もし国内のサポートも失った支援国(欧米諸国とその仲間たち)が、ウクライナの頭ごなしにロシアと同様の話し合いをして「それでいい」と受け入れてしまったらどうでしょうか?それでもウクライナはロシアと戦い続けるでしょうか?そこは、私には分かりません。

ただプーチン大統領がそこで止まるかは疑問です。NATOメンバーになっていない旧ソ連の共和国は格好の“次の“ターゲットになるでしょう。特にプーチン大統領が「恩をあだで返した」と怒っているトカエフ大統領が治めるカザフスタンや、別の独裁国トルクメニスタン、ウクライナ侵攻後、プーチン大統領を公然と非難するアルメニアなどは今後恐怖に震えることになるかもしれません。プーチン大統領としては、本心ではバルト三国あたりを攻めてしまいたいところでしょうが、NATO憲章第5条適用によるNATOとの戦争は避けたいとの理由から、すぐにはターゲットにはならないかと思います。ただし、常にロシアの脅威には晒され続けるかとは思いますが。

それに気づいて歴史的な立ち位置を覆したのがフィンランドとスウェーデンでしょう。NATO加盟を急ぎ、トルコに散々虐められながらも耐えているのは、非NATO国である限り、常にロシアの拡大の脅威から逃れられないとの思いからだと思われます。特にロシアと直接的に約1,400キロメートルの国境を接しているフィンランドは、過去に攻め込まれた記憶もあり、さらにNATO憲章の第5条の適用対象になることを望んでいると思われます。

ただ、大多数はロシアとの決別を選んでいると言われていますが、フィンランド国内にはロシア系住民もまだ多く、ウクライナ東部やクリミア半島のケースがそうであったように、何らかの“同胞救出のための作戦”がロシアによって実行される可能性に晒されているのも現実です。

ではタイトルの問いに戻りましょう。

「プーチン大統領は失敗したのか?」

ウクライナへの侵攻という意味では、軍事的に苦境に立たされ、多くの犠牲を出してしまったという点と、当初の予想を大きく上回る戦争期間でロシア経済を疲弊させ、国際経済からの切り離しを経験したという点では、失敗の要素が多いかと思います。

ただまだ負けてはいないことと、欧米諸国とその仲間たちからの支援にもかかわらず、確実にウクライナの力を削ぎ、一方的にではありますが、国土も“拡大”したという点では、ロシア的な視点では目的は一部達成されているとも言えます。

そして一応はウクライナ支援で一致している欧州各国とアメリカの結束における温度差をあからさまにし、欧米の分断を煽る効果があることや、第3極に位置する多くの国々をアメリカと欧州各国から切り離し、欧米諸国とその仲間たちによる対ロ制裁の穴を作ることが出来たこと、そして欧米諸国とその仲間たちの国際情勢における影響力の低下を明らかにしたことは、もしかしたらプーチン大統領が獲得したもの、そしてロシアにもたらしたものと性格付けできるかもしれません。ちょっと強引ですが。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 威光に翳りも。プーチンのウクライナ軍事侵攻は、結局「失敗」だったのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け