威光に翳りも。プーチンのウクライナ軍事侵攻は、結局「失敗」だったのか?

 

ただ元々の地政学的なメンタリティーはランドパワーとしてのものであり、直接的な脅威には先んじて攻め込んで克服し、自らの領土の安全・安心を拡げようというスタイルです。

2014年のクリミア併合後8年間にわたり、NATO諸国はウクライナを軍事的に支援し、ついにはユーラシアにおいてロシアに次ぐ第2の軍事大国にまで仕上げてしまいました。自国の国家安全保障の観点からNATOの東方拡大を嫌い、NATO諸国に辞めるように再三警告してきたにも関わらず、無視されたことで最後の手段に出たというのが、いいか悪いかという価値判断を挟まずに、今回のことを見た場合に理解できることです。

NATO諸国と日本のような仲間に共通しているのは、あまりランドパワー的な思考がなく、どちらかというと文化や経済力などといったソフトパワーの拡大に重点を置くシーパワー的な思考ですが、ロシアや中国といった広大な土地を持ち、かつ他国に囲まれ、国内にも反乱分子となりうる少数民族グループを多数抱えるランドパワー的な国は、力による拡大こそが最大の防御という思考に発った行動を取りがちです(ちなみに最近の中国は、これまでにランドパワーとシーパワー両方を志向してうまく行った国がないという歴史上のチャレンジに挑んでいるように見えますが、元々はランドパワー的な思考が強く、ゆえに中央集権的な統治で全体を抑え込むというスタイルと分析されます)。

現在、ロシアが仕掛けているウクライナへの攻撃は、このような見方をすると、強大化しつつあった隣国が自国にとっての脅威となる前に潰してしまうという思考に基づくものと思われますが、それがウクライナを超えてさらに西に波及してくることを恐れて、欧州各国はウクライナを支援し、欧州がロシアの影響下にこれ以上入ることを許せないアメリカは、同盟国と民主主義の根幹を守るためという“大義”の下(価値観の拡大と普及を通じて影響力を拡げるシーパワー的な思考)、抜きん出てウクライナの支援に勤しんでいます。

しかし、少し意地悪な見方をすると、ウクライナの後ろ盾となり、武器を供与している欧米諸国とその仲間たちの中で、本当にウクライナのために戦っている国は皆無だと考えます。

以前にもお話ししたとおり、ゼレンスキー大統領は「これはウクライナにとっての生存のための戦争であり、私が司令官だ」と言っていますが、これはアメリカも欧州各国も崩さない、越えない一線であり、あくまでもウクライナの戦いを助けるという位置づけです。

もちろんロシアによる蛮行と暴走を止めるために、ロシアを懲らしめないといけないという意思は働いているでしょうが、実際には、欧米vs.ロシアといった核兵器を持つ大国同士が直接的に交戦することがないように、ウクライナを大国間の緩衝材として使い、(NATO側から見れば)ロシアとの戦いの全面にウクライナを立てて、欧米諸国とその仲間たちの“代理”としてロシアに対する攻撃を加えるという戦略です。

「ウクライナを用いてロシアの力を削ぐことが出来ればよし。ウクライナが国として存続するか否かは別として、現在のウクライナの場所を欧米諸国とロシアとの緩衝地帯にできれば“解決策”としての最低条件は整う」

このところ調停グループでの活動を通じ、関係者と協議していると、ふとこのような絵柄が見えてきたように思います。

その中で気になったのは、すでにロシアが押さえている・押さえようとしているドンバス地方と南部、クリミア半島の帰属には、実際にはさほど拘っておらず、大国ロシアとの間に緩衝地域が半永久的に存在することの方が大事というニュアンスが感じられます。

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