威光に翳りも。プーチンのウクライナ軍事侵攻は、結局「失敗」だったのか?

 

ドイツはこの決定で欧州各国との亀裂・足並みの乱れを解消したかに思われますが、まだ実際にいつ何基供与し、それはどのモデルなのかが決められていないことと、エネルギー資源および食糧資源などの供給の首根っこをロシアに握られている事実は変わらず、できることならロシアとあまり対立したくないというドイツ議会の思惑もまだ透けて見えることから、どの程度の効果が発揮できるかはわかりません。

その背景には、11か月も継続し、ドイツを含む欧米諸国とその仲間たちが対ロ経済制裁を課した反動が自分たちにも降りかかり、家計・経済、そして生存に向けた戦いに欧州各国の市民が疲弊して飽き飽きしてきていることがあります。

「ロシアそしてプーチン大統領が行っていることは決して許されないし、ウクライナ国民の痛みにシンパシーを強く感じるが、同時に止まらないインフレは私たちの生活を苦境に陥れているので、ただwe stand with Ukraineとばかりは行っていられなくなった」

ウクライナのゼレンスキー大統領が恐れていた厭戦機運の高まりと支援の停止・停滞、そして何よりも関心の薄れ・消滅が、まず欧州各国で現実化してきているように思われます。政府は何とかウクライナ問題をクローズアップし、支援の継続を行おうとしていますが、ウクライナへの支援はどの国の政治体制でも選挙の票につながらないという悲しい現実の前に、残された時間はあまりないのかもしれません。それはどうも米国も同じようです。

それゆえに戦局を一気に変え、停戦に持って行きたいということでここにきて最新鋭戦車の投入ということになったのだと思われますが、これは確実にロシアをさらに刺激することとなりますし、インド・トルコを軸とした第3極を形成するアフリカ諸国・中東諸国・ラテンアメリカ諸国から「さすがにやりすぎ」との非難が欧米諸国に向けられ、それらの国々とロシアの接近を進めることにつながる恐れがあります。

実際にラブロフ外相が南アを訪れて両国の親密な関係をアピールしていますし、中東諸国はウクライナ問題から距離を置き、エネルギー資源という財産をベースに利益を拡大し、さらに対欧州のカードを増やしていくことで、パワーバランスに変化が出てきています。

そこで何が起きているのでしょうか?

「欧州と米国のintegrityの綻びの拡大」
「世界の分裂(3極化)、とくに欧米中心型の世界秩序の終焉に向けた動き」

などです。

そして興味深いのが、最近の中ロに共通する動きともいえるのですが、中ロをベースとした国家資本主義陣営の影響力拡大よりも、つく側を決めていない大多数の国々と地域を欧米諸国とその仲間たちから引きはがすという戦略への転換が見られることです。

「内政・国内情勢に口出しをせず、実利で結びつく」という現実路線とも言えます。

平等・自由・民主主義というイデオロギーではなく、それぞれの国々の在り方を相互に尊重するということですが、そこには独裁も人権侵害も存在し、少数派の存在は認めつつ権利は認めないという暗部が存在します。

多民族国家であるエチオピア政府の現状しかり、独裁を通じてintegrityを図るスタン系の国々然り、そして言わずもがなロシアと中国も同じで、これらは大まかにいえば地政学的な関心と恐怖に基づく心理であり、もしかしたらプーチン大統領とロシアが戦う理由なのかもしれません。

最初にも書きましたが、ロシアは14の国と国境を接し、190近くの少数民族グループを抱えている大国ですが、港は冬季には凍結し、常に不凍港を探してきた歴史があります。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 威光に翳りも。プーチンのウクライナ軍事侵攻は、結局「失敗」だったのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け