世界的なEV化の波に完全に乗り遅れた感があるものの、猛追する姿勢を見せ始めたトヨタ自動車。しかしもはや彼らに「勝ち」はないようです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、Windows95を設計した日本人として知られる世界的エンジニアの中島聡さんが、トヨタを取り巻く現状を解説しつつ、同社の「負け」を決定づける4つの理由を列挙。さらにそんな危機的状況を正しく認識している経営陣がいないという事態に対しては、致命的以外の何物でもないとの見方を示しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
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日本のトヨタ自動車が世界で負ける理由
先日、ハワイに暮らす知り合いと、彼らを日本から訪ねてきた妹さんを含めて食事をしたのですが、彼女が、突如「トヨタ自動車は大丈夫か?」という話題を振ってくるので、少々戸惑いました。確かに私が得意な話題ではありますが、その場で簡潔に回答できる話でもないし、食事の場で、その手の話題を延々としては食事が美味しくなくなると感じたからです。
とは言え、私の得意なトピックでもあるし、このメルマガでも時々触れる話でもあるので、一度考えをまとめる上で、包括的に書いてみるのも良いと思いました。
トヨタ自動車の強みを列挙すると、
- 他社を圧倒する品質の高さ
- ハイブリッドを活用した「低燃費でクリーン」な自動車
- 米国におけるマーケットシェア
- 米国工場
- 健全なバランスシートとキャッシュフロー(豊富な資金力)
- ブランド力
- カンバン方式
- 高い製造技術
- デンソーを筆頭にしたパートナー企業群
- 強力な販売網(ディーラー・ネットワーク)
となります。EVシフトなどが起こらず、今のままのマーケットが続くのであれば、ピックアップトラックでしか利益を上げることができない米国勢(GM、Ford)、ディーゼル車の不正事件でブランド力が大きく傷ついたドイツ勢(VW、BMW、Audi)と比べてトヨタ自動車は「圧倒的な力」を持つとさえ言える状況でした。ハイブリッドの次の世代のエンジンとして水素エンジンの開発も進めており、トヨタ自動車の戦略は盤石のように見えました。
この状況を大きく変えてしまったのが、Teslaが起こした、急激な「EVシフト」なのです。Tesla以前にも、電気自動車を発売した企業はありますが、どれもコストが高すぎる、航続距離が短い、などの理由で失敗に終わりました。1996年に発売された、GMのEV1が良い例です。トヨタ自動車も、一度はTeslaと提携して電気自動車を発売しましたが、同じく早々に撤退してしまいました。
そんな中で、なぜTeslaだけがEVビジネスを立ち上げることに成功してしまったのかに関しては、いろいろな見方がありますが、一言で言えば、Elon Muskの「からなずEVシフトを起こす」という強烈なビジョンとリーダーシップに尽きると言えます。
Teslaの成功により、業界関係者が「来るはずがない」もしくは「来るとしても随分先のこと」と考えていた「EVシフト」が、突如、現実のものになってしまい、トヨタ自動車をはじめとする既存の自動車メーカーは、「足元をすくわれる」状態になってしまったのです。
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