だからトヨタは世界で負ける。危機的状況をまったく理解していない致命的な企業体質

 

そんな中で、急激なEVシフトが始まったのが中国です。大きな問題となっていた排気ガス対策として中国共産党が打ち出したEVシフトを促す政策が追い風となり、BYDなどの「EVベンチャー」が数多く立ち上がり、Teslaの本拠地である米国を越す勢いで、EVシフトが進みました。

既存の自動車メーカーの中で、最初に電気自動車の開発に本気で取り組み始めたのは、ドイツ勢です。ディーゼル車の不正事件で大きく傷ついたブランド力を取り戻すには、いまさらトヨタ自動車と争っても勝てる見込みのないハイブリッドは飛び越し、EVシフトの波に乗った方が良い、という判断です。

トヨタ自動車は、低燃費のハイブリッド車が市場で成功していたこともあり、当初は「EVシフト」に関して否定的でした。地球温暖化対策として市場からガソリン車・ディーゼル車を排除しようとする国や地方自治体に対しては、「急激なEV化は不要、ハイブリッド車でも十分な効果がある」というロビー活動を懸命に行い、しまいには「電動化」という言葉を発明し、ハイブリッド車を正当化しようという試みさえ展開しています。

しかし、その努力も虚しく、多くの国や地方自治体が、2030年から2040年以降は、ハイブリッド車も含めたガソリン車・ディーゼル車を販売出来なくするという法律を作り、EVシフトに大きく出遅れていたトヨタ自動車は窮地に追い込まれてしまいました。

追い込まれたトヨタ自動車は、2022年になってようやく「包括的なEV戦略」を発表しましたが、ここまで大きく広がってしまった遅れを取り戻すのは簡単ではなく、2023年になった現在でも、トヨタ自動車製のEV市場での存在はゼロに等しいという悲惨な状況です。

とは言え、豊富な資金力と高い技術力を持ったトヨタ自動車であれば、今からでも遅れを取り戻すことは十分に可能で、本格的なEVの時代になったとしてもトヨタ自動車は現在のシェアやブランド力を維持出来ると考える人は少なくありません。

長年、Xevo(旧UIEvolution)という会社を通して、トヨタ自動車にソフトウェアを提供して来た立場としては、私もそうなることを望んでいますが、私が知る限り、それはとても難しいと感じています。

主な理由を列挙すると、

  1. トヨタ自動車は、これまでソフトウェアをすべて外注して来ており、社内にソフトウェアを作れる人がいない
  2. 急激なEVシフトは、トヨタの系列会社にとって、致命的なまでの痛みを伴う
  3. 4年おきのモデル・チェンジという開発サイクルが今の時代にミスマッチ
  4. ハードがコモディティ化され、ソフトウェアが利益を上げる時代にはトヨタ自動車は戦えない

となります。

特に致命的なのがソフトウェアです。トヨタ自動車は長年、車載機などの開発は、デンソーやパナソニッックなどの車載器メーカーに対してソフトウェア込みで発注し、彼らがさらに下請けに対してソフトウェアの開発を発注するというスタイルで行って来たため、ソフトウェアが自ら書ける人材が全く育っていないのです。

自動運転も含めたソフトウェアが最も重要になりつつある今の時代に、この状況は危機的状況ですが、そもそもそれが「危機的な状況」であることを正しく認識できている経営陣がいないという状況が、私には致命的に見えました。

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