日本が介入しなければ「日本有事」などにはならない台湾有事
第2に、その次に、「台湾有事は日本有事」と、台湾で事が起きれば自動的に日本有事になるかに言うのは間違いである。石破も【12】でさりげなく「台湾有事だけれども5条事態にならないということはあり得る」と言っていて、これが正しい。5条事態とは、日米安保条約第5条「共同防衛」すなわち「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、共通の危険に対処するように行動する」事態のこと。台湾有事に米軍が介入しただけではまだ日本有事ではなく、それに対して中国側が米軍の出撃拠点となっている在日基地をミサイルなどで叩くという戦術を採れば初めて日本有事となるし、あるいは15年安保法制の趣旨に従って自衛隊が最初から米軍に随伴して参戦していれば、当然日本全土が報復攻撃の対象となりうる。逆に、台湾有事でも米日が共に介入しなければそれは中国の「内戦」であり、日本有事とはならない。
岸田の大軍拡の主要目的は「敵基地先制攻撃能力」の獲得で、それによりこれまで「専守防衛」を建前としてきた日本の安保政策が大転換すると盛んに言われているのだが、石破はその「専守防衛」という言葉そのものが極めていい加減なものだと【4】と【6】で述べている。
専守防衛は軍事用語ではなく政治用語だというのは言い得て妙で、その通りである。言うまでもないことだが、憲法第9条は「陸海空その他の戦力」の不保持、「交戦権」の否認を謳っているものの、主権国家としての言わば自然権としての自衛権まで否定されているのでなく、自衛のための必要最小限度の実力部隊を持つことは憲法に背馳しないという理屈で野党と国民を言いくるめてきたのが歴代自民党政権である。が、しからば「必要最小限度」とはどの程度なのかと問われれば、誰もそれに答えられない。石破の言うように「何が最小限度なのだということ、これをきちんと測るような便利な物差しが世界のどこにもあるわけではない」。なのになぜこの言葉が持ち出されるのかと言えば「必要最小限度だから戦力ではない、戦力ではないから陸海空軍ではない」という言葉遊びのような「ロジック」を用いる必要があったからである。
それを今回は一段と大拡張して、敵基地先制攻撃能力を持つのも専守防衛の範囲内だと言い出したのが岸田で、それに対して石破は慎重論を唱えているのである。
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