強烈な皮肉。石破茂が10年ぶりの国会質問で岸田首相に放った言葉

 

デマゴギーにも程がある「今日のウクライナは明日の台湾」

石破は【3】で、岸田の「戦後安保政策の大転換」とはどういう意味なのか、防衛費の増額はいいとして「なぜGDP比2%なのか、なぜ43兆円なのか」は明らかでない。ただ単に「安保環境が激変した」と言ってすませるのでなく、国民に対してきちんと説明して得心を頂くべきだと言っている。これは大正論で、まさに岸田の話にはそこが致命的に欠けている。

この項の末尾で石破が「しかしながら、今日のウクライナは明日の台湾、台湾有事は日本有事というような、そういうような思考というものを余り簡単にすべきものではないと私は認識しています」とさりげなく言っているのは、ズバリ核心を突いている。

第1に、「今日のウクライナは明日の台湾」は、今はほとんど言われなくなったが、多くの専門家と言われる人たちまで含めて散々振り撒かれてきたデマゴギーで、

  1. ロシアは凶悪な元共産党独裁の国家である
  2. 中国はロシアと親密な現産党独裁の国家である
  3. だから習近平は、プーチンがああいうことをしたのなら自分も台湾に同じようなことをしてもいいんだと勇気づけられたはずだーー

という連想ゲームによって成り立った理屈である。

しかし話は逆さまで、もし習近平がプーチンから学ぶことがあるとすれば、電撃作戦で短期決着可能だと誤認して徒に武力を用いるととんでもない泥沼に嵌って国家存続の危機に陥る危険がどれほど大きいかということである。「プーチンがやったんだから僕もやってもいいのかなあ」といった幼稚さで習が国家の存続と国民の幸福をギャンブルに投じることなどあるはずがない。

しかも、話はもう一めくり逆さまで、仮に台湾が一方的に独立を宣言し、それは中国にとっては領土の失陥なので絶対的に許容することができないので、その場合に限り、武力を用いてでも阻止する。とはいえ、「1つの中国」を標榜する中国(および台湾の国民党)にとってはそれはあくまで「内戦」である。仮に米軍とその従者である自衛隊がそれに実力を以て介入すると、それは外国勢力による国境を超えた侵略に当たる。

台湾有事介入ならプーチンと同じ間違いを犯すことになる日米

ところで、ウクライナ戦争の本質は、ウクライナ国内のドンバス地方で相対的に多数をなすロシア系住民にどれだけの自治権を付与すべきかをめぐる「内戦」に他ならない。2013年にウクライナの「マイダン広場」の市民デモを米国の国務省・CIAや民間基金が支援して翌14年早々に親露派大統領が国外に亡命した後、その突端に露黒海艦隊の枢要基地がありロシア系住民が8割を占めるクリミア半島がNATOの手に堕ちたら国家の存亡に関わると判断したプーチンは、電光石火の作戦でそこを抑える。その時、ドンバス地方の2州のロシア系住民代表は、クリミアと同様に住民投票を実施してロシアへの領土編入を求める意思を表明、そのように願い出るが、プーチンはそれを退け、「諸君はあくまでウクライナの中でいきよ」とたしなめる。そしてそれを可能とするために、ロシア系住民の「ロシア語を話す権利」をはじめとする生存権確保のための交渉を露独仏の後見下でキエフ政府と2州代表が行う枠組みとして「ミンスク議定書」合意を立ち上げた。

これを破ってテロ合戦に持ち込んだのはどちらか分からず、まあどちらもどちらというところだろうが、とりわけキエフ側の「アゾレフ連隊」など外人部隊を含めた私的戦闘集団の所業は苛烈を極めたようで、それに我慢ができなくなったプーチンが軍事介入を決断した。これが旧ソ連時代であれば「治安出動」であったはずが、今では一応、独立国同士の関係なので、ウクライナの内戦に対する外国であるロシアの介入すなわち「侵略」ということになってしまった。

ということは、台湾有事という「内戦」に外部から米日などが介入すると「侵略」になり、プーチンと同じ間違いを犯すことになるのである。

つまり「今日のウクライナは明日の台湾」にしてはならないのは米国や日本なのである。

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