少子化で国家を滅亡に追いやりかねない大問題
問題は、どうして「中学教師が高校入試の指導ができないのか」「高校教師が大学入試の指導ができないのか」ということです。どういうわけか、教職課程を取り、正規の免許を取り、教員試験に受かり、長年現場で経験を積んでいるはずの正規の教員には「受験指導が」できないのです。そうではなくて「無資格の受験のプロ」を集めて営利活動をしている経産省管轄の「塾や予備校」は受験指導ができるのでしょうか?
これは根本的な問題です。子育ての教育費を押し上げている最大の要因がここにあるわけですし、そのために少子化で国家を滅亡に追いやるかもしれない、そんな問題なのです。
では、「正規の先生は能力が低いので受験指導ができない」のでしょうか?多くの保護者、生徒はそう思っているのかもしれません。確かに、教師用の指導書に頼った内容希薄な授業をして平然としている中高の先生はいるかもしれません。最近はマルチメディアのツールなどもついてきますし、教科書会社はネットでの情報提供もしていますので、手抜きをしようと思えばできる時代です。と言いますか、終身雇用に「あぐら」をかいて手抜きをしてきた「でもしか先生」というのは昭和の時代にはゴロゴロいました。
私は違うと思います。
そんなことはないはずです。早稲田の世界史にしても、東大の2次の数学についても、難化しているという共通テストの国語にしても、パターンは単純ですから、高校のちゃんとした先生がシステマティックに取り組めば問題はないはずです。先生方の能力が足りないからではありません。
問題は制度にあると思います。3つの問題点があります。
教師を受験指導から遠ざける3つの制度的欠陥
1つは、能力別、到達度別のクラス編成が公立校の場合は非常に難しいという「縛り」の問題です。能力別というのは昔と違って、全く禁止されているのではないのですが、例えば受験指導ができるレベルのきめ細かな区分けをすると、「教委」が介入したり、差別だと怒鳴り込んでくる保護者がいるなど極めて慎重になっている、その問題は解決していません。ここを突破しないと先生が正規の時間数などの中で受験指導はできないのです。
2つ目は、公立校の場合に教科書からのカリキュラム上の逸脱が許されないという「縛り」です。例えば、高校の数学3と数学Cなどは、到達度の早い生徒は高2で与えて何の問題もないし、実際に私立ではそうしています。ですが、公立校の場合は、3年生にならないと数学3はできないし、それで一杯一杯なので受験指導などは不可能という考え方がある学校があります。
こんな規制というのは、例えば水泳の指導において、息継ぎのできる生徒も、まだ学年が低いので息を止めて泳げなどというのと同じで、奇々怪々な縛りなのですが、こんなことでは受験指導などできません。
3つ目は、授業以外の教員の負担です。行事、記録、報告書、保護者対応、出願に係る事務など、山のように雑務を抱えた教員は、現在のカリキュラムでも大変なのに、加えて受験指導などできないという実情があります。
しかしながら、これは全く本末転倒な話です。教師の本分は学科の授業ですし、ホンネベースであれば、中高生の学習動機の99%は上級の学校に合格することです。その一番重要なタスクに正規教員が関与できない、それも制度的にそうなっているというのは、欠陥制度としか言いようがありません。
このままでは、少子化で国が滅亡するというのに、一体何をやっているんだということです。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年2月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、2月分のバックナンバーをお求め下さい。
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