シラける日本の若者たち。岸田「異次元の少子化対策」では絶対に子供が増えないと断言できる理由

2023.04.27
 

結婚・子育てを若者にとっての「苦行」にしているもの

このたたき台が打ち出された日、テレビ各局のニュースが街頭インタビューを行っていた。多くの子育て中の女性が画面に登場したが、異口同音に子育てには助かると言っていたが、もう一人子どもを持とうと発言をした人はいなかった。

これが、子育て中の夫婦の持つ「実感」である。子育てとは、経済的にやりくりが難しい若者夫婦にとって「苦行」なのだ。たたき台は、その「苦行」を少し和らげるくらいの効果しかないということだ。これでは、もう一人子どもを増やそうという気にはとてもなれない。

若者にとって結婚、子育てが「苦行」となってしまうのはなぜか。社会が大きく変化しているにもかかわらず、政治、財界、官界の首脳の多くを占める5-60歳台の世代の時代の社会や家庭のモデルを若者に押し付けることになっているからだ。

そして、そのモデルが現実に合わなくなってきたのは、日本経済が「失われた20年」と呼ばれた長期停滞から抜け出せないことが根本的な原因だ。

第二次安倍晋三政権の約8年弱の期間、再三にわたって企業に対して「賃上げ」を要請してきた。だが、企業はその要請になかなか応じなかった。グローバリゼーションによる厳しい競争にさらされた企業は内部留保をため込むばかりで、賃上げを行わなかった。また、一部の企業は年功序列の雇用慣行を廃し、終身雇用の正社員を減らして非正規雇用を増やすことでコストダウンを続けた。

正規・非正規雇用の格差問題は国会で議論され続けた。ようやく、21年4月に全ての企業を対象とした「同一労働同一賃金」の原則に基づく政策が打ち出された。だが、政策の裏をかき、正社員の賃金を下げて非正規雇用に合わせることで同一賃金とする企業が少なくなかった。その結果、格差は縮まらず、賃金も一向に上がらなかった。

その間、経済の構造改革が求められ続けたが、政界も官界も財界もその先送りを続けた。経済を活性化させる新しい産業はなかなか生まれず、世界と比べてIT化、デジタル化が遅れていることが、コロナ禍を通じて明らかになった。

要するに、奇跡的な高度成長という「昭和の成功体験」からなかなか離れることができなかった上の世代が、経済・社会の変化に対して有効な策を撃てなかったことのしわ寄せが若者を経済的な苦境に陥れている。

その上、少子化問題を国家的な危機だと煽り、その解決を若者に押し付けて責任逃れをしている。大学という場にいて、卒業生や現役学生を観ているとわかるが、若者はそのことにしっかりと気付いている。上の世代の言うことに白けているのは間違いない。

それでは「将来への夢と希望」がある政策をどう考えればいいか。現代は、国家が目標を決めて、若者がそれに従い、一丸となって夢と希望をもって進むということはあり得ない。

「外国に追いつき、追い越せ」で一枚岩になれた高度成長期のような時代は再び来ることはない。国民の価値観は多様化してしまっていて、国家がそれを管理することは不可能なのだ。一人一人が、それぞれの価値観を持って、多様な形で人生を充実させていく時代だ。そこで国家ができることがあるとすれば、そのための基盤を整えることである。

価値観の多様化にかかわらない形で、国家が整えられる基盤があるとすれが、その1つの例は、経済的な基盤を作ることだろう。経済的に余裕があれば、人生を充実させるために投資することができるようになるからだ。

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