「異次元の少子化対策」に含まれている自民からのメッセージ
結婚後に2人とも正規雇用で働き続ける「生涯共働き」は、一部の企業で推進され始めている。だが、その動きが多くの企業に拡大していくには。以下のような支援策が必要になる。
- 女性の労働意欲を阻害する「103万円の壁をはじめとするボーダーラインの改革
- 「くるみん認定」「えるぼし認定」などの女性活躍や育児支援に力を入れている企業への助成金など優遇措置の拡大
- 保育園の建設増、保育士の人数増、その待遇の改善など共働き世帯を支援する体制の改革
- 現在の「出入国管理法」のスキームを超えて移民を拡大し、保育・家事に携わる人材を確保する
これらの政策は、個別に少しずつ進められているものだ。だが、「Too Little(少なする)」「Too Late(遅すぎる)」と言わざるを得ない。特に、女性を家事労働から完全に解放することと、外国人家事労働者を家庭に入れることについては、保守派から強い抵抗がある。自民党の政権が進めるのは難しいのが現実だ。
だが、海外に目を向ければ、共働き夫婦をサポートし、子育て・家事を行うベビーシッターやハウスキーパーを海外から受け入れるのは、上海など中国本土の大都市や、香港、台湾、シンガポールなどで行われている、共働き夫婦のキャリア形成を支援するモデルだ。日本だけが頑なにそれを拒否し続けるのではなく、従来の発想を超えて、必要な政策を検討する必要がある。
岸田首相は、「社会の考え方を変えないといけない」と発言した。それは、「男性も育休を取得し、企業がそれを支援しなければならない」という文脈での発言だった。若者や企業の現役世代に変われと言っているのだが、まず変わらなければならないのは、岸田首相と同世代の保守的な人たちなのではないだろうか。
繰り返すが、岸田政権の「異次元の少子化対策」は、「少子化対策」ではなく「子育て対策」でしかないと批判してきた。だが、この政策をフェアに評価すると、1つのメッセージが含まれていると思う。
自民党はリアリティの政党だ。草の根から国民の声を吸い上げて、なにが問題かは的確に理解している。そして、現実的に実現が難しいこともよく掌握している。
自民党は、口が裂けても言わないが、少子化問題の抜本的改革など無理だと本当はわかっているのだろう。少子化を人口増加に変えるには、夫婦一組に子どもが3人必要だ。経済的に困窮した若者に、それを強いるのは現実的ではない。それがわからない自民党ではない。
「異次元の少子化対策」に実は含まれている1つのリアリティとは、日本では、今いる子どもを一人も無駄にはできないということだ。この連載で、セルジオ越後さんの「補欠廃止論」を紹介したが、日本では、補欠だからといって球拾いをさせておく余裕はない。また、勉強で成績が悪い子を落ちこぼれと切り捨てることはできない。
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すべての子どもが生き生きと人生を歩めるために、丁寧に適性を見つけて育てていくことが必要だ。少子化はすぐには変えられなくても、まずは一人一人の子どもを大切に育てていくということにカネを使うというのであれば、無意味な政策ではない。
岸田首相は、厳しい現実を認めることだ。その上で、できることは「子育て」に徹底的に注力することだと正直に言えばいい。実は「異次元の子育て対策」なのだというならば、若者に理解を得られるのかもしれない。
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