プーチンが密かに企む“大ロシア帝国復興”と戦争長期化による周辺国の政情不安

 

「大ロシア帝国復興」というプーチンの目論見

下手をすると2024年に入ったら、ウクライナの背後には頼りになる“壁”は存在しないかもしれません。特にウクライナがこのまま領土を奪還できないまま戦闘が膠着するような事態になると、それはまさにウクライナにとっては悪夢のシナリオが待っていることを意味します。

欧米諸国からの軍事支援が途切れ、ロシアによる侵攻に対抗する術を失うと、ウクライナ国内では【ロシアとの戦争を継続すべきと主張する勢力】と、【ロシアとの即時停戦を訴える勢力】とがぶつかり合い、政治的な混乱と対立が深まることになります。

そしてその混乱の波は、ウクライナ周辺国、特にロシアからすると裏切り者と呼びたい国々(バルト三国やポーランドなど)に波及し、各国の国内政情不安が勃発します。

実はそれこそがプーチン大統領とロシア政府が目論んでいる目的だと思われます。

そのような不透明な見通しと恐怖があるがゆえに、ウクライナも戦果を強調して(誇張して)支援を繋ぎとめる願いが透けて見えますし、バルト三国などは独仏伊および米英に対して、ウクライナへの支援を止めないように訴えかける外交を行っています。

ロシアがこれまでになく航空戦力を拡大し、ウクライナ地上軍と物理的な距離を保ちながら攻撃を激化させている背景には、ロシアの軍事戦略の転換とウクライナを生殺しにでもしようかと考えている戦術が見えてきます。

今週たまたま話すことがあったロシア専門家の分析によると、ロシアの戦略上の目的は、軍事的な勝利というよりは、ウクライナを筆頭にロシアに楯突く元ソビエト連邦の共和国政府の反ロシア勢力への制裁であり、政治的な分断と親ロシア政権の樹立、そしてプーチン大統領とロシア政府が目指す“大ロシア帝国復興”だとのことですが、それが実現するか否かは、“国際社会”がどれだけ本気でウクライナという壁を死守することにコミットし続けるかにかかっていると思われます。

この戦争、本当に長引きそうですね…。

止まらない中国・北朝鮮の核戦力増強

ところで国際社会の目がロシア・ウクライナ戦争の一進一退の状況に向けられている間に、世界の他の部分ではいろいろなことが進んでいます。

一つ目は【中国・北朝鮮の核戦力の軍拡】です。

最近スウェーデンのSIPRI(ストックホルム国際平和研究所)が発表した分析によると、中国の核弾頭数は昨年に比して60発以上増加しており(総数は410発)、ICBMやSLBMの性能と搭載能力向上と合わせると、単純に数値換算できないほどの著しい軍拡が進んでいるとのことです。これは中国がかねてより主張している“国家安全保障上の必要数”を大幅に上回る量と思われますが、中国当局は特段コメントしていません。

そして北朝鮮に至っては、少なくとも5発増加し(合計30発)、それに加えて50から70発分の核分裂性物質を保有しているという分析がなされています。

ウクライナ紛争を機に、一気に2分化されている国際社会と安全保障環境の隙間を狙い、両国が核戦力を一気に高めているということを意味しますが、問題は「誰が(どの国が)この急速な核戦力の拡大をサポートしているか」「核不拡散を監視するはずのNPTはもう作用していないのか?作用していないなら、代替のシステムはないのか?」といった内容になります。

特に国際社会の目が欧州・ユーラシア大陸に向いている間に、ただでさえ緊張が高まっている北東アジア地域の核戦力の拡大が急速に進んでいることは、新たなnuclear arsenal(核戦争)の危機が、日本にとって非常に身近な地域で高まっていることを意味します。

G7広島サミットでは「核なき世界」に向けた決意が再確認されましたが、SIPRIが発表した分析結果は、世界の安全保障、特に核兵器の危機の増加という観点では、どなたかの表現を借りると、「G7ごときでは十分な影響力を与えられない」ほど、G7の影響力は地に落ち、新しい力の原理が、また核兵器により形作られようとしていることが言えます。

先述の通り、ロシアとウクライナの戦争が長期化・膠着化の様相を呈する中、北東アジア地域における核戦力のバランスの大きな変化がさらに進められることが非常に懸念されます。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • プーチンが密かに企む“大ロシア帝国復興”と戦争長期化による周辺国の政情不安
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け