厳しい国際競争だけじゃない。日本人の賃金がちっとも上がらない根本原因

2023.06.20
UMEDA, OSAKA, JAPAN - CIRCA JULY 2019 : View of crowd of people walking down the street in busy rush hour. Many commuter walking near Osaka train station after work. Shot in early evening.UMEDA, OSAKA, JAPAN - CIRCA JULY 2019 : View of crowd of people walking down the street in busy rush hour. Many commuter walking near Osaka train station after work. Shot in early evening.
 

諸外国と比するまでもなく、長期にわたり賃上げが進まない日本。政府の再三の要請にもかかわらず、企業が賃上げに応じない理由はどこにあるのでしょうか。今回、政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さんは、その要因として挙げられる「国際競走の激化」もさることながら、根本原因として日本独特の問題があると指摘。それらが解決されることなしでは、日本が「亡国の道」から逃れることは出来ないとの厳しい見立てを記しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

なぜ企業の「賃上げ」はまったく進まないのか?日本社会が抱える根本的な大問題

岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」は、「アベノミクス」の経済成長が大企業と富裕層を潤した利益を、より個人レベルに「分配」する政策を実行するとしている。そして、首相は「賃上げ」が、利益分配のために極めて重要であるとしている。

だが、賃上げは、安倍晋三政権期以降、何度も取り組みながら、成功したことがなかった。首相や財務相、経済財政相など経済閣僚が企業に対して、アベノミクスで積み上がる利益を内部留保にしないで「賃上げ」するように何度も要請した。しかし、企業は要請に応えることがなかったのだ。

なぜ、企業は政府の賃上げ要請に応じないのか。この連載では、「グローバル経済」の影響を指摘してきた。国際競争に晒された日本企業は、いつ競争に敗れて経営危機に陥るかわからない状況下で、利益が出ても社員に「賃上げ」という形で簡単に還元することができない。さらなる競争に備えて内部留保をため込むしかなくなっているのだ。

一方、厳しい国際競争だけが、日本企業が「賃上げ」できない理由ではない。なぜなら、日本以外の海外先進国も、同じように国際競争に晒されているはずだが、「賃上げ」が進んでいるからだ。

内閣官房の新しい資本主義実現本部事務局が出した「賃金・人的資本に関するデータ集」によれば、1991年から2019年の日本の賃金上昇率は1.05倍である。一方、英国は1.48倍、米国は1.41倍、ドイツ、フランスは1.34倍である。日本の賃金上昇率はかなり低い水準なのである。厳しい国際競争下でも、他の先進国は賃上げを達成している。日本企業が賃上げできないことには、別の理由があると思われる。

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出典:内閣官房の新しい資本主義実現本部事務局が出した「賃金・人的資本に関するデータ集

そもそも、海外企業は賃上げに熱心だという。現在、世界的な物価上昇に合わせて、「賃上げラッシュ」と呼ばれる現象が起きている。それは、先進国だけの現象ではない。新興国でも労働者からの賃上げ圧力が強まっており、企業はそれに応えている。日本の状況と真逆なのではないだろうか。

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