厳しい国際競争だけじゃない。日本人の賃金がちっとも上がらない根本原因

2023.06.20
UMEDA, OSAKA, JAPAN - CIRCA JULY 2019 : View of crowd of people walking down the street in busy rush hour. Many commuter walking near Osaka train station after work. Shot in early evening.
 

官僚の忖度問題すらも引き起こす「日本型雇用システム」

また、深刻な問題となっている、いわゆる「官僚の忖度」も、年功序列・終身雇用制と深い関係があることも指摘しておきたい。

2014年に、各省庁の事務次官、局長、審議官など、約600人の幹部人事を官邸の下で一元管理する目的で、「内閣人事局」が設立された。官邸が省庁幹部人事を一元的に管理するようになれば、当然、官邸の省庁への影響力が強くなっていく。官僚側からすれば、官邸の意向を踏まえなければ出世できない、官邸の意向に反することをしようとすれば左遷されるということを日々気にして仕事をしなければならなくなるからだ。

その結果、例えば、森友学園問題にかかわる財務省の「公文書改ざん」問題など、官僚が官邸に従順になり、過剰に首相の意向に「忖度」するような事態も起こるようになった。内閣人事局が「忖度を生む元凶である」と批判されている。

だが、内閣人事局の権限そのものは、政治任用職が多い米国など欧米諸国と比較しても、特別問題があるとは思わない。問題があるとすれば、日本の官僚制の人事システムが、省庁別に「終身雇用」「年功序列」となっていることと、内閣人事局がセットになっていることではないだろうか。

英国のような中途採用も多く、民間との人事交流が多い制度だと、首相が幹部人事に影響力があっても、現場で首相への「忖度」は起きない。例えば、首相官邸から「首相のお友達への9割引きでの国有地売却」の圧力がかかったとする。しかし、現場を担当する官僚が、今後民間企業に「土地鑑定の専門家」として転職してキャリアアップを考えていれば、首相の意向など気にせず、圧力を拒否することができる。

一方、日本では省庁別の新卒一括採用で、年功序列・終身雇用だから、首相官邸が幹部人事の決定権を持つことの影響が、省庁の末端まで及び、幹部だけでなく現場レベルにまで首相への「忖度」が広がることになるのだ。

最後に、日本社会全体を覆っている、問題解決の「先送り」「責任回避」体質と年功序列・終身雇用の関連について指摘したい。

前述の通り、年功序列・終身雇用制を採用する会社では、同期と横並びで出世していくシステムの中で、ローテーションでさまざまな業務を数年ずつ経験しながら、キャリアアップしていくことになる。このシステムの特徴は、表面的には、同期入社の出世は横並びだ。そして、何か問題が起きて、横並びの出世コースから外れると、元に戻るのが難しいということだ。

だから、自分の担当部署が無難であることが最重要になる。自分が担当の間、何か問題が起きても、それを解決するより、その問題をできるだけ隠して「先送り」し、別の部署に異動するときに、後任に渡そうとすることになる。

逆に、問題をわざわざ表沙汰にして、解決しようとしても評価されない。「先送り」をしてきた先人にとっても都合が悪い。だから、そういう人は煙たがられる。組織の人事評価は、周囲と調和していく「穏健な人」が高く評価され、出世していく傾向になる。

要するに、日本社会では、学校から企業などに入社し、無事に定年退職まで勤め上げる間、静かに事を荒立てず、無難に「やったふり」をするのが出世の道となる。誰も成果を上げようとはしなくなってしまうのだ。

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