厳しい国際競争だけじゃない。日本人の賃金がちっとも上がらない根本原因

2023.06.20
UMEDA, OSAKA, JAPAN - CIRCA JULY 2019 : View of crowd of people walking down the street in busy rush hour. Many commuter walking near Osaka train station after work. Shot in early evening.
 

「メンバーシップ型雇用」が少子化問題の元凶に

また、安倍政権以降の歴代政権から賃上げの話が出るたびに、「高い賃金を払ったら倒産する」「街が失業者であふれる」「経済が混乱する」という反論が財界や評論家から出てきた。それが、企業が「賃上げ」を拒むことにお墨付きを与えることにもなってきた。

つまり「ぜいたくは敵だ」「欲しがりません、勝つまでは」という、かつての歴史を思い出すような「精神論」を労働者に強いることで、厳しい国際競争を乗り切ろうということになる。

このように、年功序列・終身雇用制の「日本型雇用システム」が、海外とは異なる日本企業の「賃上げ」に対する独特の姿勢を生んでいるのだ。

そもそも、日本では「賃上げ」を政府の要請により「人為的に行う」というものだということになっている。それは、それは経済の原理に反しているだろう。賃上げは、経済が良くなれば自然に起こるはずのものだ。その原理が、年功序列・終身雇用制によって歪められていることが、日本の賃上げ問題の本質だということだ。

年功序列・終身雇用制の「日本型雇用システム」は、かつて日本の奇跡的な高度経済成長をもたらしたものであることは言うまでもない。だが、そのシステムは、現代では日本社会・経済にさまざまな弊害をもたらしてしまっている。

例えば、この連載で指摘したが、日本で「少子化問題」が諸外国よりも深刻になるのも、年功序列・終身雇用制に問題がある。この制度によって、結婚・子育てが若者にとって「苦行」となってしまうからだ。

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このシステムは、結婚して子どもができると、妻は離職して専業主婦になるか、正規雇用の職を失い非正規になることを前提としている。まず、少子化問題以前に、このシステムは、「女性の社会進出」自体に大きな悪影響を及ぼしている。

年功序列・終身雇用制の組織では、そもそも途中でキャリアを中断する可能性のある人に、重要な仕事は任せない。だから、女性は新入社員の時から、出世コースに乗らない。そして、日本の「女性管理職比率」は14.7%で、先進7か国中最下位、2021年の世界ランキングでは世界187か国中177位という驚くほど低い順位にとどまっている。

少子化問題との関連を指摘すれば、このシステムでは、結婚すると所得が実質的に減ることになるのが、若者にとって本質的に重要な問題である。

例えば、職場結婚を考える同期の正規雇用のカップルいるとしよう。年収は2人とも500万円。結婚で妻は退職する。2人で夫の年収500万円を使うことになる。一人当たり250万円である。子どもができるともっと少なくなる。

妻が非正規で働いたとしても、夫の500万円+100万円で合計600万円。やはり、一人当たり300万円で結婚前より使えるお金は少ない、2人がそれぞれ人生目標を持とうとしても、夫は家族を養うことだけで精いっぱいになり、妻に至っては人生目標自体を奪われることになる。家庭を築き子どもを育てることに「夢や希望」を持つのは無理である。

従って、少子高齢化を本質的なところから解決しようと思うならば、年功序列・終身雇用制の日本型雇用システムを変える必要がある。ゆえに、この連載では、結婚後に、2人とも正規雇用で働き続ける「生涯共働き」で、ファミリー所得を500万円+500万円に倍増し、若者が子どもを持とうという気持ちになれる「ダブルインカム・ツーキッズ」政策を提唱している。

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