厳しい国際競争だけじゃない。日本人の賃金がちっとも上がらない根本原因

2023.06.20
UMEDA, OSAKA, JAPAN - CIRCA JULY 2019 : View of crowd of people walking down the street in busy rush hour. Many commuter walking near Osaka train station after work. Shot in early evening.
 

賃上げを阻む日本の「年功序列・終身雇用制」

海外と日本の企業の賃上げを巡る対応が真逆となる理由の1つは、「年功序列・終身雇用制」の有無だ。海外の企業は、基本的に年功序列・終身雇用がない。いわゆる「ジョブ型」の雇用制度が採用している。これは欧米の企業だけではない。日本と文化が近いとされる中国や東南アジアでも、基本的にはジョブ型である。

ジョブ型雇用とは、企業が勤務内容・勤務地・時間などの条件を明確化して雇用契約を結ぶ雇用制度だ。労働者は、契約の範囲内で働き、基本的に別の部署や他の拠点への移動・転勤はなく、昇進や昇格もない。

ジョブ型雇用が採用された社会では、より高い賃金を得るためや、昇進や昇格したい時には、他の企業に転職するしかない。ポジションの募集は、基本的に「公募」で行われる。内部昇進・昇格もあるが、その際も外部からの応募者と公平に審査されて、なぜ内部昇格・昇進が妥当なのかを外部に公開しなければならない。

そのため、労働市場は競争的になる。優秀な人材はよりよい待遇を求めて企業を渡り歩く。これに対して、企業は賃上げをしないと、人材を引き留めることができなくなるからだ。厳しい国際競争に勝つためには、人材確保が必要であり、賃上げする必要があるということになる。

年功序列・終身雇用のない「ジョブ型雇用」のセーフティネットとなっているのが労働組合だ。労組は、日本のような企業別ではない。鉄鋼、自動車、造船など業界別の労組が活動の中心となっている。

業界別労組の下で、労働者は同じ業界のいろいろな企業の間を移りながら働く。これは、欧州の製造業に代表される雇用形態だ。例えばドイツで、景気が悪化しポルシェが工場を閉鎖したとする。ポルシェの労働者は、労組が政府と交渉して得た長期の失業保険を得て生活が守られる。そして、フォルクスワーゲンが工場の労働者を新たに募集したら、移籍する。

このような雇用形態の場合、労働者は「仕事は何か?」と聞かれると「自動車産業の部品製造」というように、自らの仕事の内容を答えることになる。

さらに、海外では「同一労働・同一賃金」だ。同じ労働をして、正規と非正規、大企業と中小企業で賃金が異なることはない。これも、優秀な人材の獲得競争の結果である。他社より低い賃金では優秀な人材に逃げられるので、賃上げ競争が起こり、企業規模にかかわらず、同じ労働ならば同じ賃金になっていくのだ。

日本では、年功序列・終身雇用制で、労働者は同じ会社に勤続する。労働者の転職、中途採用はいまだに数少ない。いわゆる「メンバーシップ型雇用」と呼ばれる制度である。

「同一労働」は「同一賃金」ではなく、同じ社内で年功序列・終身雇用のステータスを持つ正社員のほうが、そうではない非正規社員より賃金が高い。また、大企業と中小企業の間で、同じ労働でも賃金に格差がある。大企業の正社員と、それ以外には、明確な上下関係、格差が存在する。

そして、どんな会社のメンバーであるかが重要なので、社員は「仕事」を聞かれると、仕事の内容ではなく、「トヨタ」「ホンダ」のように会社名を答える。中小企業も取引のある大企業との関連を強調し、自らを「トヨタグループ」「ホンダファミリー」などと称する。

この雇用制度下では、企業間の人材獲得競争はあまりない。幹部候補生を新卒で採用する一方、中途採用枠が少ないのだ。だから、社内外の労働者から、企業に対する強力な賃上げ要求は起きない。むしろ、厳しい国際競争に打ち勝つために、グループ・ファミリーのメンバーである労働者に、「我慢」や「節約」という「努力と協力」を求めることになる。

print
いま読まれてます

  • 厳しい国際競争だけじゃない。日本人の賃金がちっとも上がらない根本原因
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け