プリゴジン暗殺は確実か。ロシアに起こりうる4つのシナリオ
話を直近の情勢に戻しましょう。ちなみに、本号につきましては、配信はいつも通りですが、原稿の締切を編集体制の中で繰り上げざるを得ない事情がありまして、配信の5時間前(編集部注:日本時間27日午前1時50分)以降の動向は反映できていません。従いまして、配信直前に情勢が大きく動いた場合は、皆さまの方で補完しつつお読みいただければと思います。
当面のシナリオとしては、4つが考えられます。
1)プーチンは、とりあえずロシア正規軍がワグネルに寝返るのは止めることができた。その絶妙なタイミングで、ルカシェンコと共謀してプリゴジンに進軍を諦めさせ、ベラルーシ亡命とワグネル兵士への恩赦という「手打ち」をした。だが、当然反逆者のプリゴジンを生かす訳はなく、早々に暗殺する。ただ、プーチンのショイグ、ゲラシモフへの信頼も更に揺らぎ、プーチン政権はゆっくりと崩壊へ向けて進む。その中で、タイミングを見極めて習近平が和平を仕掛ける。
2)これは 1)のバリエーションで、プリゴジンは暗殺。プーチン政権は延命する中で、ショイグとゲラシモフが「身の危険」を感じて、「朴正煕暗殺のようにプーチンを宮廷クーデタで葬る」または「これを察知したプーチンが2人を処刑」あるいは「ゲラシモフがプーチンに忠誠を誓ってショイグを暗殺」というような宮廷内部の抗争が具体化する可能性。
3)プリゴジンの進軍を停止させたのはルカシェンコの深謀遠慮で、ルカシェンコは「ポスト・プーチン」の切り札として、プリゴジンを利用する計画。改めて、北からのウクライナへの攻勢を強化して、プリゴジン=ルカシェンコは、ウクライナを痛みつけつつ、時間を稼いでプーチンを隠居へ追い込む(二人は犬猿の仲とはいえ、昨日の敵は今日の友、になるのかも)。
4)改めてロシア正規軍に合流した元ワグネル兵士(相当数が流刑者など)が、厭戦気分を正規軍に伝染させて、戦況が更にロシアに不利に。そのタイミングで、習近平が和平仲介。
どれも可能性はありそうです。例えばですが、プリゴジンを即時に暗殺して、プーチンが正規軍を強化し、改めてウクライナ戦線を立て直すというのもゼロではありませんが、これは可能性としては低いのではと思われます。
いずれにしても、動きが急ですので注意して見て参りたいと思います。
それはともかく、この間の動きによって仮にウクライナ情勢が和平に向かうとして、そう簡単に安心はできません。もう少し大局的な観点から考えると、この1年強の戦争によって、第二次大戦後の国際平和をある程度は維持してきた「枠組み」や、当面の国際社会の安全を保障する仕掛けが、壊されているからです。
6点、問題提起をしておきたいと思います。
1点目は、戦時国際法と戦争犯罪の問題です。今度という今度は、戦闘の極めて初期の段階から、戦争犯罪に関しては証拠の保全に成功しているわけです。この証拠を利用することで、正しい断罪、つまり責任を果たすべき人間には果たしてもらうことで、将来への抑止力となるような透明性と説得力のある戦争法廷が必要です。
2点目は、核不拡散という問題です。人類社会はIAEA(国際原子力機関)を作り、核拡散防止条約の枠組みを運用してきました。今回の核兵器のベラルーシ配備は、この体制を真っ向から否定するものであり、撤回させることが必要です。ここで既成事実を重ねることは、北朝鮮への悪しきメッセージにもなるわけで、かなり優先順位の高い話になると考えます。
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