プーチンの料理人としての立ち位置を維持するプリゴジン
乱の後、プリコジン氏の力が削がれているという情報もあるのですが、プリコジン氏とワグネルを切り離してみておく必要があります。
プリコジン氏はワグネルの創始者でありますが、作戦の指揮を握る現場の指揮官であったことはありませんし、彼は、ワグネルを傘下に収めるコンコルド社の社長であり、給食サービス、金融、メディアなどを同じく傘下に収めているオリガルヒです。乱の後、メディアの放送権が取り消されたとか、軍への給食の配給の契約が取り消されたといった情報が錯綜していますが、実際には表舞台に出ることを控えているだけであり、失脚はしておらず、今も“プーチンの料理人”としての立ち位置を維持しているようです。
裏切りは決して許さないプーチン大統領ですが、プリコジン氏が率いるワグネルは、経済的な権益を保持したまま、アフリカ諸国における軍事的なプレゼンスを維持して影響力を行使しつつ、アフリカ諸国における政権維持のために用意されてきたワグネルの勢力のうち、余剰勢力をベラルーシに集めて、対ウクライナ戦線に追加投入する計画であることが見えてきました。
つまりプーチン大統領もその手足として工作活動を行うプリコジン氏とワグネルも勢力を温存したまま、利権を維持し、政治的な工作も行って親ロシア派の“輪”を拡げています。その威力は今、国連やG20などで発揮されており、かつローバルサウスの国々との距離を縮めることで、中国との適度なパートナシップの下、発言力を強化しています。
非欧米諸国を欧米諸国から遠ざけ、中国と築いてきた国家資本主義陣営を拡大して、多様な政治形態を飲み込んだ緩やかだが大きな協力体制を築き上げ、欧米型の統治形態と対峙する勢力を育て上げるという目標は、皮肉にも、叶えられつつあります。
もちろん非欧米諸国もロシアが武力によって現状を変えようとしていることに対しては非難していますが、多くが「それよりもこれまでアメリカや欧州各国が途上国に対して行ってきた過去の悪行に比べるとましだし、何よりも上から目線で他国の国内情勢に口出しし、土足で踏み込んでこない」という見解で一致しており、積極的にではないにせよ、ロシアに対するシンパシーと、ロシアに対する一方的な制裁措置の発動への反感で、非欧米諸国グループの連携が強まってきているように見えます。
ただ、プーチン大統領とロシア政府中枢が気にしているのが、中国への過度な依存と、勢力圏での中国の発言力の拡大です。今回のウクライナ戦争におけるロシアへのサポートには心から感謝しつつも、中国側に大きく傾いてしまったパワーバランスを何とか均衡に戻したいとする意図が見え隠れします。
その戦略をいかに実行するのかは分かりませんが、ロシアがターゲットになっている現在から、近未来的に中国がターゲットにされるまでの間は、Frenemy(Friend-Enemy)的なパートナシップを保ち、新しい勢力圏を共に築き上げ、欧米諸国とその仲間たちからの攻撃に協力して備えるという関係は続くと考えられるので、しばらくは中ロ間の直接的な衝突は起こりえないと思われます。
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