排外主義的な「スパイ防止法」自民案にチラつく統一教会の影。今こそ真にフルスペックの防止法を制定せよ

2023.08.18
 

「国益」を損ねる「謙虚さ」のない政治家

安倍元首相の首相在任時に、自民党と旧統一教会が再接近して選挙活動を中心に関係を築いたことはこの連載でも指摘した。そして、勝共連合は「特定秘密保護法」では不十分であり「スパイ防止法」が必要であると訴え続けている。

安倍元首相暗殺事件後、旧統一教会による不安に陥れて高額な物品を購入させる霊感商法とのかかわりや、高額な献金、親が信者の「宗教2世」の問題が次々と明らかになり、社会問題化した。このような団体などが「スパイ防止法」の制定を支持することで、この法律が団体を守るために恣意的に利用されるものではないかと、疑われてしまうことになる。

要するに、日本において「スパイ防止法」を制定するにあたり、最も問題となるのは、その制定を目指す政治家・支持団体に対する「信頼」がないことである。「謙虚さ」がなく「軽率な言動」「驕り」「傲慢な態度」によって、権力に対する国民の支持・信頼が失われてしまっていることが深刻な問題である。

今からでも遅くはない。政治家は「謙虚さ」の大切さをあらためて認識してほしい。強い権力を持つからこそ、何をしてもいいのではなく、普段はその扱いには慎重にならねばならない。そうでないと、いざというときに、国民に信頼されず、権力を使えなくなってしまうのだ。

つまり、「謙虚さ」のない政治家は「国益」を損ねる。政治家が「謙虚さ」を持つことが安全保障なのだということを自覚することだ。「スパイ防止法」を制定したいならば、それが初めの一歩なのだと強く訴えておきたい。

最後に、重要なことを言っておきたい。政治家に「謙虚さ」「信頼性」を求めるだけでは不十分だということだ。

繰り返すが、英国は高度な「監視社会」が構築されている。そして、警察と情報機関は知り得たことの情報源を明かすことはない。しかし、英国民は基本的にそれを特別に問題視していないように思える。

英国で「監視社会」が認められている理由は、権力に対して委縮することがない強力なジャーナリスト、学者の存在、それを支える政権交代のある政治であろう。

英国は、日本の「テロ等準備罪」が想定するようなテロ対策を実施しているし、「スパイ防止法」がある。しかし、ジャーナリストなど一般国民を有罪とした事例は過去ない。英国では、政権が権力乱用を安易に行うことはできない。国民がそれを不当だとみなした場合、政権は容赦なく次の選挙で敗れ、政権の座を失ってしまうからである。

つまり、権力に委縮し従順なジャーナリスト、学者や国民がいればうまくいくのではない。むしろ、権力に屈せず、決して「忖度」しないジャーナリスト、学者、国民の存在こそが、それに対して謙虚に正面から対峙する政治家への「信頼」を高めることにもつながるのである。

image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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