排外主義的な「スパイ防止法」自民案にチラつく統一教会の影。今こそ真にフルスペックの防止法を制定せよ

2023.08.18
 

中国から向けられた自由な言論・学問に制限をかける「圧力」

保守派が支持する「スパイ活動を取り締まる法律」は、どこか排外主義的な匂いがするものだ。私は、逆説的だが、ヒト、モノ、カネが国境を越えて自由に移動するグローバル社会の中で、日本が多様な人々を積極的に受け入れて成長しつつ、国民が安心・安全に暮らせる社会になるために「スパイ防止法」が必要だと思うのだ。

現在、大学の教育・研究の国際化は、難しい問題に直面している。日本は少子高齢化が進む中、日本人の若者だけで優秀な人材を確保するのは困難だ。海外から優秀な人材を受け入れる必要がある。しかし、それは大きなリスクが伴っているのだ。

例えば、日本の最先端の技術が海外に流出し、国の安全が脅かされる「経済安全保障」の懸念を大きくする。特に、中国から来る留学生・研究者の受け入れることにはリスクがある。中国では「国家情報法」「会社法」「中国共産党規約」などの法律や規約によって、国民が国家情報工作に協力することを義務としているからだ。

特に、「国家情報法」は、「いかなる組織及び個人も、法律に従って国家の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならない。国は、そのような国民、組織を保護する」と定めている。この義務の下、中国から来た留学生、研究者が、日本の企業や大学、研究機関などから最先端技術が盗み、それが中国における兵器開発に使われているという疑惑があるのだ。

理系の留学生、研究者に限ったことではない。文系にも難しい問題がある。私はかつて、香港民主化運動の学生たちとの交流があった。彼らと私のゼミ生とのオンライン・ディベートを実行するなど、言論弾圧を受ける彼らにさまざまな方法で自由な発言の場を提供しようとしたことがある。

一方で、私は大学で、多数の中国からきた学部生、大学院生を指導している。おそらく、私の所属する大学で文系理系問わず、私の受け入れ数はトップクラスだと思う。不思議なことだが、香港の民主化運動に関わり始めた後に、私の指導を受けたいという中国からの学生が増え続けている。

彼らに話を聞けば、私が執筆した論文や記事が中国でよく読まれているらしいことがわかる。当然、香港の民主化運動に関するものや、中国共産党批判が含まれている。だが、だからこそ彼らは、私から学びたいのだという。

私が教えるのは、日本の自由民主主義だ。私にとって、学生の「国籍」「民族」「宗教」「思想信条」などはまったく関係がない。学生は学生であり、「個人」だ。そして、私は「中道主義」だ。

特定の政治的立場には立たない。すべてを批判的に検証する。いいことはいいと評価する。悪いことは悪いと批判し、改善を求める。それは、英国の大学で学んだ最も重要なことである。だから、中国など権威主義体制の問題でも、誰に遠慮も忖度もせず批判してきた。

中国から来た留学生から、クレームのようなものを受けたことはない。彼らは、日本の民主主義を学びに来たと言う。よく学び、疑問を持ち、ストレートに質問をぶつけてくるだけだ。これは、普通の学生との、普通のやり取りである。

だが、不安がないわけではない。ある時、こんなことがあった。ある卒業生に対して、中国とつながりのあると思われる団体のメンバーが「上久保先生とはどんな人か?どういう考え方をしているのか?」と聞いてきた。

この団体は、単に私の情報を収集するために、卒業生に連絡してきたのではないだろう。彼が、私に報告することも織り込み済みなのだろう。私の言動を中国当局が掌握していることを、私に知らせることが目的ではないか。要は、私の自由な言論・学問に制限をかける「圧力」と考えられるのだ。

私は、教え子を信じている。彼らは本当に日本の民主主義を学びに来ているのだと思いたい。一方で、前述の通り中国には「国家情報法」がある。当局が留学生を協力させる場合に「中国にいる親族がどうなってもいいのか」と脅迫するという噂もある。

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