排外主義的な「スパイ防止法」自民案にチラつく統一教会の影。今こそ真にフルスペックの防止法を制定せよ

2023.08.18
Tokyo,,Japan,-,August,11,,2023:,People,Waiting,To,Cross
 

諸外国からスパイ天国と揶揄されるほど、さまざまな国の諜報員が「野放し状態」になっていると言っても過言ではない日本。他国並みの「スパイ防止法」の制定を求める声は少なくないものの、未だ実現に至りません。その原因はどこにあるのでしょうか。今回、政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さんは、「中道主義」である自身がフルスペックのスパイ防止法を求める理由を、これまでの経験を交えつつ解説。その上で、我が国で同法を成立させるために必要不可欠な条件を提示しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

安倍政権以降の無品格。スパイ防止法の制定前に乗り越えるべき壁

中国で「改正反スパイ法」が施行された。「反スパイ法」とは、2014年に制定されたスパイ行為の取締り強化を目的にした法律である。この法律をめぐっては、スパイ行為の定義があいまいで、法律が恣意的に運用される懸念があった。実際、中国在留の日本人が、スパイ行為に関わったなどとして、少なくとも17人が拘束され、9人が実刑判決を受けている。

現在、拘束されている日本人の早期開放の目途は立っていない。ところが、今回の改正で、従来の「国家の秘密や情報」に加えて「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料や物品」を盗み取り、提供する行為が新たに取締りの対象となるなど、スパイ行為の定義が拡大された。中国の当局による取締りがさらに強化され、日本人の安全が一層脅かされると不安視されている。

海外で拘束されている自国民を早期開放させるために、自国に入り込んだその国のスパイを摘発し、自国民と交換する「スパイ交換」という手法が世界の主流だ。中国の「改正反スパイ法」に対抗するために、日本でも「スパイ交換」ができる法律の整備が必要だという主張がある。

自民党内には、外国による「スパイ活動を取り締まる法律」(以下、「スパイ防止法」)整備に向けた提言を年内に取りまとめようとするグループ(以下、推進派)がある。議員立法で、外部からの諜報活動に対抗して、機密情報が外部に漏出するのを阻止する「カウンター・インテリジェンス」に関する法律の成立を図る。同時に、公安調査庁、警察庁外事情報部、防衛省情報本部などカウンター・インテリジェンスに関係する部門が乱立している状態を解消し、これらの統合をする法律を閣法(政府提出法案)で実現する、という提言になるとみられる。

一方、「スパイ防止法」については、1985年に中曽根康弘内閣が初めて法案を国会提出して以来、根強い反対派が存在し、その制定を阻止してきた。反対派は主に、リベラル派のメィア、弁護士、市民団体、共産党など政党に幅広く広がっている。

反対派の主張は、「スパイ活動」の内容が広範囲・無限定であり、結果として「調査・取材活動、言論・報道活動、日常的会話等のすべてに対して、当局の恣意的な取り締まりを許してしまう」というものだ。つまり、「スパイ防止法」は人権侵害の危険が大きいと批判しているのだ。

私は、大学教員の立場から、「スパイ防止法」の制定に肯定的である。その理由は、日本の大学が国際化を進め、海外との先端的な学術研究のネットワークの構築や、海外からの優秀な研究者・学生を受け入れて、かつ言論の自由、思想信条の自由、学問の自由を守るために必要だからだ。

print
いま読まれてます

  • 排外主義的な「スパイ防止法」自民案にチラつく統一教会の影。今こそ真にフルスペックの防止法を制定せよ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け