2016年にソフトバンクグループ(SBG)が買収し傘下に置くイギリスの半導体設計大手ARM。買収時に同社を非上場化したSBGですが、8月22日、米Nasdaqへの再上場を発表しました。今後ARMはさらなる飛躍を遂げるため、どのような戦略を取るべきなのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』ではWindows95を設計した日本人として知られる中島聡さんが、ARMの創業からの歴史を簡潔に紹介。その上で、同社のビジネスにとっての一番の懸念事項を挙げるとともに、ARMが攻めるべき市場を考察しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
ソフトバンクG傘下の半導体開発会社「ARM」の上場が意味するもの
ソフトバンクが持つARMの上場が正式に発表されました。ARMの歴史について、AppleやQualcommの動きも絡めて簡単に復習しておくと、以下のようになります。
- 1978年 イギリスのケンブリッジに Acorn Computer Ltd. がRISC(Reduced Instruction Set Computer)CPUの会社として誕生
- 1980年 UC BerkeleyでRISCプロジェクトが発足
- 1981年 Stanford大学でMIPSプロジェクトが発足
- 1983年 Acornのエンジニアが、Berkley RISCを参考にRISCチップを設計
- 1985年 製造を依頼されたVSLIにより、初のチップが完成。これがARM1。後に、Apple Newtonに採用される
- 1990年 Adranved RISC Machine Ltd.が Acorn Computer、Apple、VLSI Technologiy の3社の合弁会社として誕生
- 1991年 Apple-IBM-Motorolaが共同で、RISCアーキテクチャのPowerPCを発表
- 1993年 Nokiaの携帯電話向けのTIチップ(ARM7T)に採用
- 1996年 AppleがPowerPCベースのMacintoshをリリース
- 1997年 AppleによるNeXTの買収で、Steve Jobs がAppleに復帰
- 1998年 ARM Ltd.に社名を変更し、London Stock ExchangeとNASDAQに上場
- 1999年 AppleがARMの株の大半を売却
- 2001年 AppleがiPodをリリース。ARMベースのチップを採用(Samsungなど)
- 2005年 AppleがMacのCPUをPowerPCからIntelに切り替えると発表
- 2007年 AppleがiPhoneをリリース。当初はSamsung製のARMベースのチップ
- 2007年 QualcommがARMベースのSoCチップ、Snapdragonをリリース
- 2008年 HTCが最初のAndroid携帯をリリース(Qualcomm製のARMベースのチップ)
- 2010年 Appleが、自社製のARMベースのチップA4を搭載したiPhone4をリリース(製造はSamsung)
- 2016年 Softbankが£23.4 billion (US$32 billion)でARMを買収し、非上場化
- 2017年 ARMの株25%をSoftBank Vision Fundに移行
- 2020年 MediaTekが、SnapDragonに対抗して、Android携帯向けのARMベースのチップ、Dimensityシリーズをリリース
- 2020年 Nvidiaが$40billionで買収すると発表。Google、Microsoft、Qualcommなどが猛反対し、独禁法上の観点から破談に
- 2020年 AppleがARMベースのM1を搭載したMacBookをリリース
- 2022年 Qualcommが2021年に買収したNuvia向けのライセンスに関して、ARMがQualcommを訴訟
- 2023年 SoftbankがVision Fundの株を買い戻し($16 billion)、NASDAQに上場させることを発表
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