実は“いつでも勝てる”ロシア。それでもプーチンが戦争を長引かせる「魂胆」

 

敢えて戦争を長引かせるプーチンが企図していること

制空権の確保や軍事的な総合力の比較を行った場合、核兵器を用いることもなく、ロシアはウクライナを圧倒しうるものを持っているはずですが、ウクライナの反転攻勢が、望むレベルには程遠いという分析がでていても、NATO各国からの支援が次第に実用化され、実戦投入されていくにつれ、ロシアの圧倒的優位は揺らいできていると思われます。

しかし、ここで過度の期待をしてはいけないのが、今年中、または来年中にウクライナがロシアを押し返すというようなことは起こりにくく、今後もNATOからの支援が滞りなく届けられ、ウクライナ軍におけるNATO仕様の最新兵器への習熟度が上がるという前提が満たされる場合には、しばらくの間ウクライナは持ちこたえ、もしかしたらロシア軍をロシア領内に押し返すことができるかもしれません。

ただここで忘れてはいけないBig Ifは、アメリカをはじめとするNATO各国において、ウクライナに投入する武器弾薬装備の生産が追い付いていないという状況と、アメリカ軍をはじめとするNATO各国軍の自国の防衛レベルの維持に支障をきたすほどの状況の存在です。

それに加えて、各国で広がり増え続けている対ウクライナ支援の見直しの機運は、今後のウクライナ軍の対ロシア軍反転攻勢の行方をネガティブな方向に大きく作用する要素になりそうだということです。

調停グループに参加する各部門の専門家による見立てでは、ベストシナリオにおいて、ウクライナがロシア軍を押し返すことが出来るタイミングは、2025年以降が有力であり、そこのためには、すでに触れた諸条件がすべてそろう必要があるとのことです。

しかし、ポーランド政府をはじめとする自国防衛のためのリソースの再配分は、これらの国々による対ウクライナ支援の直接的な減少傾向に繋がります。

そして中東欧諸国における再軍備・軍事力強化の動きは、地域における緊張を高めることにもつながり、NATOの東方拡大の最前線における混乱にもつながることになります。

ロシアはいまもウクライナ侵攻を続けていますが、このNATO東方拡大の最前線における不協和音の創出と緊張感の高まり、そしてNATO西欧諸国とアメリカに対する不信感の拡大は、確実にロシアがウクライナ侵攻を長引かせている目的の一つと考えられますが、欧州はロシアの企てを受けて、多重の分断の危機に面しています。

それはNATO・EUにおける西欧と中東欧、南欧の間のデリケートな溝を拡大させることに繋がり、それはEUの統一性への挑戦となります。また今回の対ウクライナ支援において、アメリカの姿勢と欧州の姿勢が必ずしも一枚岩ではなく、予想外の長期化に接して、各国の国内情勢が永続的なウクライナ支援を後押ししない状況が進むことで、じわりじわりと対ウクライナ支援からの離脱・脱落国が出てきそうな気配がします。

調停グループの会合に参加している各国の専門家の共通意見は「ロシアはいつでも勝とうと思えば勝てるはずだが、なかなか勝とうとしていないのは、他のアジェンダがロシア政府内、特にプーチン大統領とその側近の頭の中にあることを示している。それは欧米諸国間の分断の加速であり、各国がウクライナ支援から退くことによって、ウクライナを孤立させ、それから好きなようにウクライナを蹂躙することを狙っているように見える」「ウクライナが堕ちたら、次は…(ポーランド、モルドバ…)という議論は理解できるし、その可能性は確かにあるが、中東欧諸国にかける無言のプレッシャーと恐怖は、ロシアが侵略せずとも、中東欧諸国内における情勢不安定化を通じて拡大し、とんでもない混乱を引き起こしかねない」という内容になっています。

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