ロシアに近接する国々で加速する自国軍の再拡大と強化
ポーランドもその周辺国もウクライナからの避難民に対して特別の待遇を与え、チャイルドケアも、就職支援も優先的に行うのですが、これが受け入れ国の国民・市民の反感を次第に買うことに繋がってきています。
ウクライナからの避難民に共通する特徴は経済的に余裕があり、決して生活に窮しておらず、総じて教育レベルも高いという現実なのですが、それにもかかわらず、様々な福祉・社会サービスが無料または非常に安い価格で提供され、受け入れ国における福祉財源をひっ迫させることに繋がり、それが国民・市民が本来受けることが出来るサービスの権利を侵害しているという意見が高まってきています。
排斥運動にまでは発展していないのがまだ救いですが、戦争の長期化と出口の見えない支援継続により、ウクライナからの避難民の居場所が次第に奪われつつあります。
実際に「東南部と違い、リビウなどは落ち着いてきているのだから、ウクライナ人は早急に帰還すべきだ」という声が多く聞こえてきます。
ポーランド政府はそのような声をしっかりと聞いており、NATOやEUに対して防衛支援はもちろん、経済的な支援も要請していますが、国内対策と対ウクライナ支援の継続でもういっぱいなEU各国にとって、ポーランドとその周辺国を支援する余裕はないのも事実で、ロシア・ウクライナに近接する国々における危機感が高まっています。
そこで一気に加速しているのがポーランド、ブルガリア、チェコ、バルト三国などにおける自国軍の再拡大と強化です。
これまでにもロシアによる脅威には晒され、それがNATO入りの大きな理由になってきましたが、このNATOの加盟国であったがゆえに、「いざというときにはNATOが助けてくれる」というメンタリティーが定着し、自国防衛モードから、NATOの一員としての集団安全保障モードに編成を変えていましたが、最近のNATO内での分裂や、ウクライナによる反転攻勢が思いのほか不発で、進捗状況が芳しくないことなどに鑑みて、「自分のことは自分で守る」というモードに回帰してきています(まあ、自分の身は自分で守るというのは至極当然ではあるのですが)。
それがポーランド政府の軍事・防衛費の拡大に繋がり、その波は中東欧諸国・バルト三国に広がってきています。
これにより、先ほどお話しした国内の社会保障費の削減につながる恐れが生じ、各国内での政府に対する反発に繋がっています。
「有事の際にはNATOが守ってくれるから、自国の社会保障を充実させよう」という政策をここ数年進めてきたわけですが、ロシア・ウクライナ戦争は、NATOの東の端のフロントの雰囲気をまた変えようとしています。
ちょっと話はずれますが、これ、どこかの国のお話にも似ていませんか?
中東欧諸国が自前で軍拡に走り、ポーランド政府のように核兵器の配備の要求まで持ち出す状況になると、必然的にロシアはBeyond Ukraineの国々に対して警戒心を高め、その背後にNATO・欧米諸国が就いているに違いないとこじつけて非難し、結果、中東欧に対する軍事的な圧力をかけることに繋がります。
ここで出てくる疑問は「果たしてロシアにそれだけの余裕があるのか?」ということになりますが、これについては、侵略当初のratioを見ると、ウクライナの軍備を1とした場合、ロシアは10となり、圧倒的な優位を誇ることになります。ただ、これまでのところ、ロシアはその優位をまだ十分に活かした戦略を取っていません。
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