実は“いつでも勝てる”ロシア。それでもプーチンが戦争を長引かせる「魂胆」

 

完全に中国の経済圏に組み入れられることになるロシア

そして欧州各国で不安を掻き立て、さらには各国の政府・政権に対する非難が高まっている要因は【欧米諸国を中心にロシアに対する厳格な経済・金融制裁を行っているが、その効果は低く、実際にはロシアを追い詰め、行動を改めさせることにはつながっていないこと】と【ロシアを支えるのは、中国を筆頭に、インド、南ア、中東諸国、ラテンアメリカ諸国など、欧米諸国と距離を置く国々であり、それらの国々が対ロ制裁の影響を無力化・軽減している】ことが、一般市民の目にも明らかになってきたことです。

そして自国政府がロシアに対して課している制裁行動の悪影響が自身に跳ね返り、先の見えないインフレとエネルギー・食料危機につながり、市民生活を圧迫していることを嫌というほど実感してきていることです。

現在、滞在中のドイツでも、昨年と比べても物価は総じて上がり、国民の購買意欲を削いでいますが、その反面、中東や中国などから訪れる人たちの消費は激増しており、経済全体としては一見、潤っているように見えますが、その恩恵が国民・市民生活に反映されていないことで、政府に対する反発の声をよく聞くようになりました。

そして対ロ制裁が、実は中国を利していることも、対中警戒を強めることを宣言した各国政府の方針と実情の違いを浮き彫りにし、各国における政府批判に繋がってきています。

欧米諸国とその仲間たちがロシアに課した金融制裁の穴は、すぐさま、中国が埋めだし、ロシアの銀行セクターに中国元建ての貸付を行って、米ドルとユーロの決済通貨としての地位を脅かし、近々、ロシアにおける決済外貨のトップになりそうな勢いです。

これ、実は中ロで進める国家資本主義陣営の拡大にも貢献することを意味し、中国の一帯一路政策と対中東・アフリカ諸国への中長期の戦略的パートナーシップを加速させ、ロシアによる対アフリカ諸国軍事支援の拡大にもつながっています(まさにワグネルのお仕事)。ロシアは軍事支援の見返りにアフリカのエネルギー資源と食糧資源の権益を持っていますが、その国際決済に、ロシアンルーブルに加えて、中国元を用いるケースが激増していることで、実質的に中国元の国際決済通貨としての流通量の高まりと地位の向上につながるというからくりです。

ロシアが今回のウクライナ戦争において回復不能なレベルまで徹底的に敗戦するという事態にならない限りは、巷で囁かれる“ロシアが中国の属国になる”ということは、軍事力を考慮した場合、ありませんが、経済的には恐らく完全に中国の経済圏に組み入れられることに繋がります。

ただし、中国政府の巧みなところは、それをロシアと共に築く国家資本主義の経済圏拡大というように表現して、ロシアを味方にしっかりとつけておくところです。

ここで気になるのが、欧州各国の今後の動きです。以前は対中経済依存の高まりと、エネルギー資源のロシアへの高い依存度が懸念とされましたが、戦争の長期化と中国の勢力拡大の動きを受けて、欧州各国の対ロ・対中態度に変化が見られています。

英国は米国と共にAUKUSの一員として対中包囲網に加わっていますし、フランスやドイツも“自由で開かれたインド太平洋”の輪に加わっていますが、経済的な側面では、中国を避けて通ることはできないことを実感し、また非欧米地域で中国の影響力がどんどん高まっていることを認識して、中国との融和を図りつつあります。

所在不明な秦剛前外相の欧州歴訪やその後の王毅外相を迎え、対話と協議を頻繁に行っているのは、その表れではないかと考えます。

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