そもそもアメリカは、中ロという核兵器を保有する二つの大国と同時に対峙することで大きなプレッシャーに晒されている。ロシアのウクライナ侵攻後、プーチン政権を孤立させ経済制裁で弱体化させようとしたアメリカの試みは奏功したとは言い難い。その大きな要素として挙げられるのが、中国やインドがロシアとの通常の貿易を止めなかったことだ。
加えて対ロ制裁の抜け穴となったのがグローバル・サウスの存在だ。西側先進国の団結とは異なり、発展途上国のほとんどは対ロ制裁には消極的だった。
そしてここにきてロシアの戦争継続に大きく貢献し始めたとアメリカが疑っているのが金正恩率いる北朝鮮だ。北朝鮮とロシアの相互軍事支援の強化にバイデン政権が神経を尖らせていることは、今月9日、韓国を訪問してパク・チン(朴振)外相と会談したブリンケンの発言からも読み取れる。
ブリンケンは韓国で、「北朝鮮に対し、中国が建設的な役割を果たすことに期待する」(アントニー・ブリンケン米国務長官)と唐突に中国に注文を付けた。おそらく首脳会談でも話題に上るはずだ。だが、いまの習近平政権が簡単にこの呼びかけに応じるとは考えにくい。
かつてトランプ政権の初期には、ウイグル問題や香港問題で中国を揺さぶろうとするアメリカに不満を覚えながらも北朝鮮にプレッシャーをかけてアメリカに協力した。しかし現在の中国には対米不信が根深い。首脳会談でアメリカが約束したことさえ「信用できない」と考えているほどだ。しかも当時と比べて中国にとっての北朝鮮の価値は大幅に増しているのだ。
さらに重要なのは、現在の国際情勢が中国に強い追い風だという点だ。冒頭で触れたイスラエルとハマスの戦争は一つの大きな画期であり、その影響力は凄まじい。
例えば中東で進みつつあったイスラエルとサウジアラビアの国交正常化の動きが、ハマスによってほぼ完璧に消し去られてしまったことだ。言うまでもなくこの動きの裏には──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年11月12日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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