まったく信用できず。経団連会長「非正規雇用の賃上げと正社員登用」発言に浮かぶ疑問符

 

一方、「均衡」は文字通り「バランス」です。「処遇の違いが合理的な程度及び範囲にとどまればいい」という考え方で、「年齢が上」「責任がある」「経験がある」「異動がある」「転勤がある」といった理由をつければ差別にはなりません。

もし、経団連が、あるいは政府が、本気で非正規の低賃金問題を解決したければ「均衡」を排除し、「均等」にすればいいだけです。コロナ禍で散々「ジョブ型にする」と言っていたのですから、非正規はジョブ型のプロとして育成し、雇用すればいい。学び直しだ、リスキリングだ、労働の流動性だ、などとことあるごとに言ってるですから、非正規をジョブ型のプロとして成長産業に集中させれば、企業は非正規の賃金アップを迫られるはずです。

これまで日本は「低賃金労働者」を生み出すことで、企業の生産性を高めてきました。女性をパートで雇い、若者をアルバイトで雇い、技能実習生などの外国人労働者に日本人が嫌がる仕事を安い賃金でさせ、高齢者を正社員から非正規に転換させてきました。

日本では当たり前になっているこれらの働き方は、世界では当たり前ではありません。どの国も同一労働同一賃金のルールのもと賃金を上げる構造をつくり、外から労働力を入れる政策を進め、いくつになってもきちんと稼げるように年齢差別の禁止を徹底し、クオーター制で意思決定の場に女性を増やす努力をしてきました。

今になって、「日本経済の未来がかかっている」と躍起になっていますが、だったら低賃金労働者ありきの経営をやめればいい。非正規の賃金を大幅にアップした一部の大企業もあるのですから、それを徹底すればいいだけです。低賃金ありきの経営を改めれば、安易に安い賃金で「人」に任せていた仕事の効率化・合理化が必然的に進みます。

なのに「そういった構造に変えよう」という強いインテンションがない。だから「変わらない」のです。

東大の卒業生に価値観の調査を行った本田由紀教授によると、年配の男性ほど「生活に苦しんでいる人は、努力が足りないせいだ」「社会に出てからは人と競争していくのが当然だ」と思う傾向にあったそうです。

このような結果をみるにつけ、日本の経営者や政治家などの社会のリーダー層にはノブレス・オブリージュが欠落していると強く感じます。

ちなみに、日本企業の正社員の数は、80年代以降、一貫して3,500万人前後です。既得権益という言葉と正社員を結びつけるのは、あまり好きではないのですが、正社員の待遇を維持するために、非正規労働者を増やしてきたように思えてなりません。

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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