まったく信用できず。経団連会長「非正規雇用の賃上げと正社員登用」発言に浮かぶ疑問符

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上昇する物価に賃金が追いつかず、苦しいばかりの状況が続く日本の労働者。長年の懸案事項である非正規雇用者の待遇改善も放置されていると言っても過言ではないのが現状です。なぜ我が国は、かような状況から抜け出すことができずにいるのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合さんが、その原因を考察。さらに政治家や企業経営者といった社会のリーダー層のノブレス・オブリージュ、すなわち「社会的地位ある者の義務」の欠落を批判しています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

「高い社会的地位には義務が伴う」ノブレス・オブリージュなきニッポンのエリート

「安いニッポン」から脱却できない状況が続いています。

2023年11月の毎月勤労統計調査によると、1人あたりの賃金は物価を考慮した実質で前年同月比3.0%減り、20カ月連続でマイナス。23年10月と比べると2.3%減から0.7ポイント拡大し、厳しい状況が続いています。

そんな中、経団連は16日、今春闘での経営側の指針を発表し、大企業で4%以上の賃上げをめざす考えを表明し、中小企業の賃上げも支えるよう大企業に求めています。

十倉会長は序文で賃上げの歯車を回すことに「日本経済の未来がかかっている」と強調。大企業の2023年の賃上げは経団連集計で平均3.99%と約30年ぶりの高水準でしたが、さらなる熱量と決意で春闘にのぞむことが「社会的責務」とし、「昨年以上の賃上げに果敢に取り組みたい」としました。また、非正規雇用の賃上げや正社員登用の重要性も強調し、メディアは「極めて異例」と報じています。

…正社員はもとより、非正規の賃上げを実現しないと、日本の未来はない、はずです。非正規の割合は36.9%、約4割です。これだけ多くの人たちが非正規雇用で働いているのに、低賃金かつ不安定な働き方は一向に改善されていません。

1時間あたりの所定内給与額を正社員・正職員とそれ以外の人で比べた場合、非正規の賃金は正社員の6~7割程です。しかも、その差はこの20年間でほとんど変わっていません。

「非正規は雇用の調整弁ではない」と言い続けていたのに、リーマンショックの時は派遣切りを行い、コロナ禍でも真っ先に非正規の人たちは仕事を失いました。

変わるチャンスは何度もあったのに、経済界は深くコミットしてきませんでした。

それだけに「どこまで経団連は本気なのか?」と、言葉どおりに受け止められないというのが率直な感想です。

そもそも有期か無期か?は単なる雇用形態の違いであるはずなのに、経営者側の
都合で「賃金格差」を当たり前にしたのです。政治家も同様です。

「同一労働同一賃金」を含めた「働き方改革関連法」が成立した際、最後まで政府は「均衡」の2文字を入れることを譲りませんでした。

1951年、ILO(国際労働機関)は「同一価値労働同一賃金」を最も重要な原則として、第100号条約を採択。この根幹をなすのは「均等」です。

「均等」とは、一言でいえば「差別的取扱いの禁止」のこと。国籍、信条、性別、年齢、障害などの属性の違いを賃金格差(処遇含む)に結びつけることは許されません。仮に行われたとすれば、労働者は損害賠償を求めることが可能です。

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