4名の自殺者も。富士通の「システム欠陥」が招いた英国史上“最大の冤罪事件”

 

TVドラマを契機に高まる新法制定を求める声

ホライゾンシステムに関しては、富士通が直接の開発者でないとはいえ、欧米の消費者からの批判が続くおそれがある。

そもそも問題が再び注目されたのは、今年の1月1日から、イギリスのITVで4日間にわたって放送された新作ドラマ『Mr Bates vs the Post Office』の影響がきっかけ。

ドラマの第1話は、イギリスで920万人に視聴され、ITVの過去3年間の新作ドラマの中で最高の視聴者数を記録。ドラマの成功により、同じ事件を取り扱った22年放送のドキュメンタリー番組『Panorama』にも注目が集まる。

結果、ITVは『Panorama』を1月15日から18日にかけて再放送することを決定(*4)。

また、ドラマが契機となり、英社会では、郵便事業者の名誉を回復し、適切な補償を行うための新法制定を求める声が高まる。

一方、村井英樹官房副長官は12日の記者会見で、

「当該企業で対応が行われているところであり、政府としてコメントすることは差し控えたい」(*5)

とし論評を避けた。

有罪判決がでるたび報奨金を受け取っていたポストオフィスの内部調査チーム

一方、英紙デイリー・テレグラフは11日、ポストオフィスの内部調査チームが、有罪判決がでるたびに報奨金を受け取っていたと報道。

この報奨金の制度は「ビジネスの一部」(*6)となっていたといい、冤罪を招いた土壌を作っていた可能性がある。

イギリスでは検察以外に企業が起訴などの刑事手続きを行う仕組みがあり、ポストオフィスが訴追を行った。

公判では、富士通でシステムを設計した担当者の「正常に機能していた」との証言が決めてとなり、有罪判決が積み上がる(*7)。

対して、英紙ガーディアンは企業が刑事訴追する仕組みがこの冤罪事件を招いたとし、司法制度改革の必要性を訴える。

事態が動いたのは19年のこと。民事訴訟の判決でシステムのミスや不具合が認定され、本格的に郵便事業者の名誉回復の道が開けた。

英BBCによると、これまでに93人に有罪が取り消されたとのこと。しかし全面補償を約束されて和解した人は30人にとどまる(*8)。

英政府はこれまでに賠償金として1億3,800万ポンド(約255億円)を拠出。だが、高額の賠償金を税金で賄うことへの疑問もあり、政府内では富士通の責任を問う声も浮上した。

引用・参考文献

(*1)ロンドン=共同「英最大の冤罪 富士通追及」西日本新聞 2024年1月14日付朝刊 5項

(*2)「郵便局冤罪スキャンダルを引き起こした富士通英子会社は買収企業」M&A Online 2024年1月13日

(*3)大井真理子「富士通の会計システムが引き起こした英郵便局スキャンダル」BBC NEWS JAPAN 2022年3月7日

(*4)「富士通も関連した英郵便局スキャンダルを描くドラマ『Mr Bates vs the Post Office』、英国で話題騒然!」海外ドラマNAVI 2024年1月16日

(*5)「富士通子会社の欠陥、論評せず 政府」YJIJI.COM 2024年1月12日

(*6)ロンドン=共同「有罪で調査担当に報奨金」西日本新聞 2024年1月14日付朝刊 5項

(*7)ロンドン=共同「英最大の冤罪 富士通追及」

(*8)ロンドン=共同「英最大の冤罪 富士通追及」

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

初月無料購読ですぐ読める! 1月配信済みバックナンバー

※2024年1月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、1月分のメルマガがすべてすぐに届きます。

2024年1月配信分
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2024年1月28日(日)号 能登半島地震から3週間 見えてきた課題石川県、「能登でM8.1」試算を知りながら、防災計画は「M7.0」据え置く 日本の避難所は“難民キャンプ以下?” (1/28)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2024年1月27日(土)号 「英史上最大の冤罪」 富士通の郵便事業者会計システムの欠陥で TVドラマ化で再注目 何が起きたのか?(1/27)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2024年1月21日(日)号 「裏金」政治資金パーティー問題で初の逮捕者 池田佳隆議員とは? JC(青年会議所)人脈を駆使(1/21)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2024年1月20日(土)号 ドイツにおいて、プールの常識、変わる ”トップレス文化”再注目 裸はいつから恥ずかしくなったのか?(1/20)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2024年1月14日(日)号 ダウンタウン・松本人志の性加害問題で問われる”吉本タブー” 維新・自民党と結託し、日本の吉本化を進める!(1/14)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2024年1月13日(土)号 自民党政治資金パーティーの謎:裏金問題の深層に迫る 政治資金パーティーとは 「裏金」「キックバック」「還流」(1/13)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2024年1月7日(日)号  “アルゼンチンのトランプ氏”右派のミレイ氏が新大統領に就任 ミレイ氏とは? 混迷するアルゼンチン経済を救うことはできるか?(1/7)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2024年1月6日(土)号 「機密費」の闇、再注目 石川・馳浩知事の東京五輪「想い出アルバム作戦」で 機密費とは? 戦前よりもひどい管理状態(1/6)

いますぐ初月無料購読

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。

2023年12月配信分

  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年12月31日(日)号 自動車メーカー「ダイハツ」の型式認証制度に関する不正問題(12/31)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年12月30日(土)号  宝塚歌劇団 なぜタブーが生まれたか? 親会社・阪急を「電車のおじさん」 ”女の軍隊”(12/30)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年12月24日(日)号 ダイハツ工業で車両認証試験の不正問題が発覚(12/24)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年12月23日(土)号  「ジェンダード・イノベーション」、注目 ジェンダード・イノベーションの例 性差、フェムテック(12/23)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年12月17日(日)号 裏金化は安倍派や二階派だけでなく麻生派でも所属議員へのキックバックを行っていた疑いが浮上(12/17)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年12月16日(土)号 創価学会・池田大作氏死去 創価学会とは? 池田大作とは? なぜ信者が拡大していったのか?(12/16)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年12月10日(日)号 NHK、子会社が契約している派遣スタッフが取材メモを流出させたと発表(12/10)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年12月9日(土)号 米大統領選まで1年 そもそもアメリカ大統領選挙とは? バイデン、若者からの支持失う トランプ、返り咲きの可能性も(12/9)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年12月3日(日)号 自民党派閥の政治団体による政治資金パーティーについての問題(12/3)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年12月2日(土)号 英元首相キャメロン氏の外相復帰で問われる”元首相の品格” 日本とイギリスとの違い 「ゾンビ元首相」を生むメカニズム(12/2)

2023年12月のバックナンバーを購入する

2023年11月配信分

  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年11月26日(日)号 オランダの選挙で極右政党が勝利したことで欧州全体が動揺(11/26)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年11月25日(土)号 岸田内閣、「辞任ドミノ」続く 「不適材不適所」 来年1月21日、ささやかれる「首相退陣」説(11/25)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年11月19日(日)号 長崎・対馬 「核のごみ」拒否 調査だけで交付金・・・ かつてはカドミウム汚染に苦しめられ 処分場「日本に適地なし」(11/19)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年11月18日(土)号 日本版DBS、実現なるか? 世界の状況 データベース化よりも必要なもの 問われる日本人の人権意識(11/18)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年11月12日(日)号 インド、国名を「バーラト」へ変更? 「バーラト」とは モディ政権のヒンドゥー至上主義の裏で(11/12)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年11月11日(土)号 性同一性障害、性別変更の手術要件「違憲」 最高裁大法廷、違憲は12例目 世界の潮流から周回遅れの日本(11/11)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年11月5日(日)号 臨時国会、開幕 適材適所? 経済対策、効果限定的か 「増税メガネ」と揶揄する日本人の”頭の悪さ”が目に余る(11/5)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年11月4日(土)号  2028年ロス五輪、追加種目決定 金権体質、再び 「ぼったくり男爵」、インドにすり寄り 任期延長も視野に(11/4)

2023年11月のバックナンバーを購入する

2023年10月配信分

  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年10月29日(日)号 深刻さを増すガザ情勢 イスラエルとは? イスラエル・ロビーとは? 安倍政権、イスラエルに接近 一方、アラブ世界で「反日」の動き(10/29)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年10月28日(土)号 世界各地で相次ぐ山火事 地球温暖化で 山火事のメカニズム ”フェイクニュース” キヤノン系シンクタンクも加担 (10/28)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年10月22日(日)号 大阪・関西万博、なぜか福岡市長がPR プロ野球優勝パレードを政治利用か?(10/22)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年10月21日(土)号 自衛隊の現在地 相次ぐ、セクハラ・パワハラ 自治体、自衛隊に名簿提供 「別班」の正体(10/21)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年10月15日(日)号 なぜ教員不足がつづくのか? 自民党政権の”悪しき改革” 「給特法」 「日本式教育」の悪夢 (10/15)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年10月14日(土)号 ジャニーズ事務所、廃業へ しかし・・・ 記者会見の茶番 アメリカで“フェイクニュース”を垂れ流す米コンサルタント会社 (10/14)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年10月8日(日)号 強行される明治神宮外苑再開発 東京五輪の”本丸” オリンピックと都市再開発利権(10/8)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年10月7日(土)号 ラグビーW杯フランス大会 ラグビー、そのスポーツの精神性 「世界のあらゆるスポーツの中でも実力の差がつきやすいラグビー」 ラグビーの歴史(10/7)
  • ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)2023年10月1日(日)号 「銅」争奪戦再び 一体なぜ? 銅山開発 環境破壊の負の歴史も 「資源の呪い」(10/1)

2023年10月のバックナンバーを購入する

image by: ricochet64 / Shutterstock.com

伊東 森この著者の記事一覧

伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版) 』

【著者】 伊東 森 【月額】 ¥330/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print
いま読まれてます

  • 4名の自殺者も。富士通の「システム欠陥」が招いた英国史上“最大の冤罪事件”
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け