緊急記者会見で露呈したバイデンの「記憶力の低下」
ハー検察官の発表に対し、当然、ホワイトハウスは緊急の記者会見を設定した。バイデンは「私を訴追しないという結論を下したことは大変喜ばしい」としながらも、記憶力の低下という指摘に対しては怒りの声を上げ、「私の記憶力は大丈夫だ」と胸を張った。ところがその直後に同じ会見の中で彼は、12月に3選を果たしたばかりのエジプトのエル・シーシ大統領のことを「メキシコ大統領」と言い間違え、まさしく記憶力の低下を曝け出してしまった。
メキシコとエジプトの世論は敏感に反応し、たまたま両国とも鷲をデザインした国章を3色縞の国旗の中央にあしらっていることから、その鷲を入れ替えたパロディ画像がSNS上でたちまち広がって、バイデンが国際的な恥晒しの対象となった。
しかもこれは彼にとって珍しいことであるどころか、人前で語るたびに起きているほぼ日常茶飯事である。7日にはバイデンは資金集め集会での演説で、21年1月に起きた米議事堂への暴徒乱入事件に触れ、同年6月のG7サミットの席上メルケル独首相(当時)から「仮に英紙タイムズが『英首相の就任を阻むため1,000人が議会のドアを蹴破って突入し、死者も出た』という記事が出たら、何とおっしゃいますか」と言われたとのエピソードを紹介したが、その時彼はメルケルのことをヘルムート・コールと言い間違えた。コールはもちろん1998年に首相を引退し、2017年に亡くなっている。
その3日前の2月4日にはネバダ州の選挙集会で同じく21年サミットに触れたが、その時はマクロン仏大統領のことを「ドイツの、いや、フランスのミッテラン大統領」と言い間違えた。フランソワ・ミッテランは1995年まで同職を務め、翌96年に亡くなった。
言い間違いなら負けてはいないトランプ
ほとんど支離滅裂の連続で、81歳という実年齢に照らしても平均よりヨボヨボ状態と言える。3年前の就任時からすでにその傾向があったので、側近らは出来るだけ記者会見などの露出機会を少なくするよう腐心し、過去3年間で33回と月に1回以下。さらにそこから外国首脳との共同記者会見などを除いた単独会見となると、何と14回。年に5回を切っている。そんな状態であることはワシントン政界のみならず米国内にも世界にも広く知れ渡っているというのに、民主党指導部は「バイデン再選」を目指す以外の大統領選への選択肢を示そうとしない。
どうして?トランプと戦って勝てるかもしれない候補は彼しかいないからで、つまりは米民主党それ自体が瀕死状態であることの象徴がバイデンの有様だということである。
もっとも、言い間違いなら77歳のトランプも負けてはいない。去る1月19日のニューハンプシャーでの集会では、21年1月の議事堂乱入事件に関して下院議長だったナンシー・ペロシが適切な保安措置をとらなかったことを口汚く罵ったが、その演説の間中、彼はペロシのことを民主党予備選の有力候補であるニッキー・ヘイリー元国連大使と混同し続けた。
言われたヘイリーは数日後、「大半のアメリカ人はバイデンとトランプのどちらの再戦も望んでいない。80歳前後の候補を最初に降ろした政党がこの選挙に勝つだろう」と言い放った。誰もがそう思っているのに、共和党もまたトランプ以外に民主党に勝てそうな候補を見出すことが出来ないでいる。世も末の米大統領選の様相である。
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