「裏金を納税するのか、しないのか」2時間54分の国会演説で自民に迫った野党議員「ぼやき漫談」の大正論

2024.03.08
 

マスコミは「野党以上にだらしない」姿をさらし続けるのか

ぼやき漫談風の語り口を楽しんでいたら、最後にとんでもない高みに連れて行かれた。そんな印象を受けた演説だった。長年、国対畑で地味な国会運営に奔走し続けた山井氏の、まさに「国会讃歌」だった。

山井氏の訴えを、岸田首相は一顧だにしなかった。予算委員会は翌3月2日、異例の土曜日開催で採決され、2024年度予算案は自民、公明両党などの賛成多数で可決。同日夕には本会議も開かれ、予算案は衆院を通過した。参院の審議が仮に長引いても、予算案は年度内に自然成立することが確実になった。

予想通り、山井演説に対するメディアの評価は散々だ。「引き延ばし戦術」「珍記録」「腰砕け」……。週末のテレビ番組で、政治ジャーナリストの田崎史郎氏は「長い長い演説は無駄でしたね」と鼻で笑い、元大阪市長の橋下徹氏は「昭和の時代のやり方」とあきれてみせた。メディアはこんな発言を、ただ垂れ流して嬉々としている。

果たして彼らは野党に何を求めていたのか。

「予算案の自然成立」だけに固執し、自らの政倫審出席で与野党を大混乱に陥れた岸田首相のわがままに対し、野党が一切の抵抗をせず「1日衆院通過」を許したら、彼らは「素晴らしい」と持ち上げるだろうか。そんなはずはない。お決まりの「野党は弱腰、だらしない」を振りかざしてあざ笑うだけだ。

逆に野党が「予算案の年度内成立阻止」に突き進めば、今度は「能登半島地震の被災地を置き去りにした。政権担当能力なし!」と断じたに違いない。

野党がどちらの方向に進もうと、反対側に回って叩く。自らが望む政治の姿など、どこにもない。中島みゆきさんの名曲『ファイト!』で歌われる「闘う君の唄を 闘わない奴等が笑うだろう」とは、まさに彼らのような人物のことだ。

国会とは、政治的に異なる考えを持つ者同士が、言葉を尽くして少しでも合意に近づける場だ。にもかかわらず、国会審議で交わされる数多くの「ことば」には何の関心も示さず、予算案や重要法案が「いつまでに成立するか」という日程闘争の取材だけに血道を上げる。

こんなメディアの姿勢こそ、政権交代の可能性がなかった55年体制当時の「昭和の政治」から抜け出ていない、と断じざるを得ない。

山井氏は3時間近くをかけて、あるべき政治の姿のために言葉を尽くした。言葉を力とすべき今のメディアのどこに、そんな「言葉の力」があるのだろうか。

政権与党は衆参両院で過半数を持ち、少数の野党の声など一切無視しても、予算案やすべての法案を成立させることができる。そんな状況の中で、野党が国会内でさまざまな戦術を尽くして、じりじりと少しでも「成果」を勝ち取り、それを次期衆院選に向けた力に変えるのは、極めて当然のことである。

ちなみに今回、山井氏の演説をはじめとする野党の戦いで得られた最大のものは「衆参両院に政治改革関する特別委員会を設置する」ことで、与野党の国対委員長が合意したことだ。合意事項のうち「来年度予算の成立後も衆参両院の予算委で集中審議を行う」などは、正直想定の範囲内だったが、特別委員会設置には軽い驚きを覚えた。

これで、自民党の政治腐敗をただすための政治資金規正法改正案など関連法案の制定に、野党も直接関与することになる。少なくとも、岸田首相が「予算案の年度内成立」によって狙った「裏金問題の幕引き」には、完全に失敗したと言えそうだ。

「そんなもの、委員長ポストを自民党が握り、委員の多数を与党が占めれば、どうせ与党ペースで審議が進む。何の意味もない」。メディアはそう言ってまた、野党の冷笑に走るだけなのだろうか。本当に裏金問題の解明と政治浄化を目指すなら、最低でも「委員長ポストは野党に渡せ」との論陣くらい張って当然だと思うが、そんな気概もないのだろうか。

筆者の出身母体でもあるメディアが「野党以上にだらしない」さまを、これ以上見たいとは思わない。今後の展開を注視したい。

【関連】裏金クソメガネの思い通りにはさせぬ。野党議員が自民に2時間54分も聞かせ続けた「脱力系ぼやき漫談」の破壊力

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尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

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