「自民党さんも公明党さんもすごい」。与党を褒めた山井氏の意図
2時間54分の演説で山井氏が語ったのは、自民党の裏金問題だけではない。能登半島地震の被災者支援に関するくだりは「国会の存在意義」の本質を、わかりやすい言葉で的確に語っていた。
「被災者支援に関する岸田政権の(対応)ね、よくやってる部分もあるんですよ。でも、ちょっと不十分さ(がある)」
裏金議員リストを延々と読み上げていた山井氏は、後半でトーンを変え、能登半島地震の被災者支援に関する衆院予算委員会の審議に触れた。ごく簡単にまとめたい。
通常国会が召集された1月26日、立憲民主党と日本維新の会、国民民主党の3党は、能登半島地震で住宅が全壊した世帯などに支給される支援金の最高額を、現行の300万円から倍増させることなどを柱とした「被災者生活再建支援法改正案」を衆院に提出した。これに先立ち24日に開かれた衆参予算委員会の閉会中審査で質問に立った立憲民主党の近藤和也議員は、自らも被災した体験を踏まえて現地の状況を報告するとともに、すでに3党での提出で合意していた法案の意義を、岸田首相に訴えた。
岸田首相は当初、支援金倍増に極めて消極的だった。「融資や税制上の特例で対応する」と答弁した首相に、近藤氏は思わず「被災された方に酷な言葉だ」と語った。
その後も国会では、支援金増額を求める質問が続いた。こうした声に押される形で、岸田首相は2月1日の能登半島地震復旧・復興支援本部で、半島北部の6市町に住む高齢者や障害者のいる世帯を対象に、最大300万円を給付する制度を「新設する」と表明した。新設というが、野党の法案の内容を、政府が一部取り込んだと言っていい。
しかし、今度は対象を限定したことに対し「なぜ高齢者・障害者のいる世帯だけ」「なぜ6市町だけ」との批判が続出した。首相は2月24日に視察先の石川県で「現役世代のうち住民税非課税世帯や児童扶養手当の受給世帯」に対象を広げる考えを示した。
近藤氏の国会質問から、ちょうど1カ月後のことだった。
演説で山井氏がこの経緯を詳細に紹介すると、議場から「近藤さんすごい!」と声が飛んだ。山井氏はすかさずこう続けた。
「『近藤さんがすごい』ってね。いやいや、これ本当に、自民党さんも公明党さんも、与党さんもすごい。やっぱり超党派で議論すると、被災者支援も進むんですよ」
議場は大きな拍手に包まれた。ここで山井氏は、再び「80時間の予算案審議を69時間で11時間も打ち切られる」という、解任決議案の「本題」に戻る。
「『11時間ぐらいええやないか』と思う人もいるかもしれません。しかし皆さん、近藤議員の30分の質問、もちろん野党(全体)の力も含めてですけれど、その結果、被災者支援の予算が増えたじゃないですか!」
罵声の類のヤジは、この頃にはほぼ聞こえなくなっていた。山井氏の言葉に、与党を含む議場全体が耳を傾けていることがうかがえた。
「予算委員会って、国民の幸せのために与野党、協力すべきところじゃないんでしょうか。与党、野党、政府が力を合わせて、被災者支援に力を入れる。これが予算委員会じゃないですか」
「80時間、69時間というのは、単なる時計の針(時間の問題)ではなくて。この1分1秒ごとに、国民の幸せを救う力が、国会審議にはあると思います。たかが11時間、されど11時間。この11時間で救われる子どもたち、救われる被災者の方々もある。
岸田総理を先頭に、正々堂々とルールを守って、月曜日に、円満にこの場で皆様と再会したいと、私は切に願っております」
多くの人々に負担をかける土日は国会を休み、4日の月曜日の本会議で予算案を採決しよう。その時に議場の皆さんとまたお会いしたい。
山井氏は最後にこのように訴えて、演説を締めくくった。